2016年、フィリップアイランド(オーストラリア)での第1レースのベストラップタイムはチャーン(タイ)のそれとほぼ同じでした(オーストラリア:174.990 km/h、タイ:174.527 km/h)。それでも、前者のトラックはブレーキ時の負荷が非常に小さいのに対して後者はブレーキングシステムに大きな負担がかかるコースです。 また、トラックで使われるブレーキの回数も、ブレーキングシステムにかかるストレスを評価する上での重要な指標にはなりません。例えば、ロサイル(カタール)とドニントン(イギリス)。スーパーバイクのライダーはロサイルサーキットではトラックにある16箇所のカーブで13回のブレーキをかけ、ドニントンではラップあたり7回しかブレーキングしません。ところが意外なことに、ブレーキに対してより過酷なのはロサイルではなく、ドニントンのサーキットの方なのです。
一方で、アッセン(オランダ)とアラゴン(スペイン)の両サーキットの場合は、どちらもラップあたりで必要になるブレーキング回数は10回ですが、アッセンのトラックはブレーキングが容易なのに対して、アラゴンはその逆で非常に難しくなっています。この違いは、ブレーキングの強さにあります。アッセンの場合、4秒以上の制動を必要とするブレーキングセクションは1箇所のみですが、アラゴンではそれと同様の箇所が3箇所あります。 当然のことながら、300 km/hでブレーキングセクションに進入した場合にかかる負荷と200 km/hから減速するときにかかる負荷は同じではありません。
ここではムジェロやバルセロナなど、MotoGPクラスが345 km/hを超えるようなトラックについての話をしているわけではありませんが、スーパーバイク世界選手権で使用されるサーキットの中にもライダーの走行スピードが300 km/hを超えるところはいくつもあります。 ただし、非常に速い速度から進入するブレーキングセクションが1箇所のみでその他のセクションは比較的穏やかな速度域から減速すれば良いトラックの方が、高速域からの制動が複数箇所にばらけて発生するトラックよりもブレーキングシステムにかかるストレスは格段に小さくなります。
この状態を最も顕著に表しているのが、先ほども登場したフィリップアイランドです。ライダーたちはスタートライン直後に設置されたカーブ1にめがけて312 km/hまで加速します。しかしこのオーストラリアのトラックにおいて230 km/h以上の速度から減速するブレーキングセクションはこの1箇所のみとなっています。