ドヴィツィオーゾが熱く語るブレーキへのこだわり

2019/05/10

 アンドレア・ドヴィツィオーゾにとってブレーキとは、そしてブレンボとのつながりとは。

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2018年12月のある日の午後、ドヴィツィオーゾが訪れたのは、イタリア・クルノにあるブレンボの本社。ここでは、MotoGPやF1をはじめとする世界レベルのモータースポーツレースで使用されるブレーキパーツの設計・製造・試験が行われています。​

そこでドヴィツィオーゾが改めて目にしたもの、それは、世界選手権での自身の活躍を長年支えてきた技術者らが日頃口にしているものであり、また彼に異名「ライダーエンジニア」が付くもとになったものでもありました。ドヴィツィオーゾはマシンの挙動を科学的に分析する能力に秀でていて、マシンの改良も得意。彼が駆るデスモセディチにそれが表れています。​

       

 

ライディングスタイル​​


ショールームにやってきたドヴィツィオーゾは、展示されているF1マシンやプロトタイプ用のキャリパーとブレーキディスクを見るとすぐにその詳細についてくわしく尋ね始めました。MotoGP用ブレーキの製造現場においても、技術者らへの質問がやむことはありませんでした。​

「何もかもが非常に精密で高レベルの技術でしたね。そういうものだろうとは想像していたけれど、実際目にしてよくわかりました。チェックの量も膨大だし、作業や素材に向き合う姿勢もすごく真剣で、見ていて納得がいきましたよ。ブレーキってレースにおいてすごく重要なものですからね。」ドヴィツィオーゾはそう言って、ボルゴパニガーレへ戻っていきました。​

ブレーキに関してドヴィツィオーゾは独自のこだわりを持っています。「僕はブレーキにはめちゃくちゃうるさいですよ。オーバーテイクの技術は誰にも負けないつもりでこれまでやってきたし、ブレーキのちょっとしたこともすごく気になる方なので。基本はとにかくレスポンスと正確さ。通常フロントレバーは指2本で操作しています。」​



 
 
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サムマスターシリンダー​

2017年の時点で、マルク・マルケスに迫る勢いをキープした唯一のライダーがドヴィツィオーゾでした。2017年と2018年に連続でシーズンランキング2位を獲得、そして優勝回数も、他の選手は最高で4勝のところ、ドヴィツィオーゾは11勝をあげ、マルケスの16勝に迫っています。​

​単なる偶然かもしれませんが、この期間は、ちょうどドヴィツィオーゾがサムマスターシリンダーを使用するようになった時期と一致します。サムマスターシリンダーは、1992年オランダGPの500ccクラスの予選で事故に遭ったマイケル・ドゥーハンに対して、早く怪我から復帰できるようにと考案されたものでした。ドゥーハンの怪我は、一時は折れた右足を切断することさえ検討されたほどの非常に深刻なものでした。​

右足が使えないドゥーハンのためにブレンボの技術者がサムマスターシリンダーを新たに開発し、それを使ってドゥーハンはリヤブレーキの操作ができるようになりました。右足のブレーキペダルの代わりに、ハンドルの左側に装着したハンドコントロールでリヤブレーキを操作します。ドゥーハンはこのシステムを使用して、1994年~1998年の間500ccクラスで5連覇の偉業を果たしました。​

一方、ドヴィツィオーゾはサムマスターシリンダーを使わない時期が長く続きました。「ホンダに戻ったときに使っていたけど、いったんやめました。ドゥカティに来てまた使い始めたら、良さをわかっている選手が多かったので嬉しかったですね。僕が使うのは右コーナーだけです。コーナリング中は右足でリヤブレーキの操作ができないから。このとき人によっては足を前へ伸ばしていたり、フットレストの先に乗せていたりと、まちまちですね。」​

コーナリングでのスリップを避ける目的でサムマスターシリンダーを使用する選手もいますが、ドヴィツィオーゾは違います。「サムマスターシリンダーだと指で操作できて、足でペダルを踏む操作よりずっと力が少なくて済むので、マシンの傾きが最大になったときだけ使っています。」​


 

ウェット路面でのブレーキング​

ドヴィツィオーゾは、ウェットコンディションでカーボンディスクを使用してMotoGP優勝を果たした2人目の選手です。2017年の日本GPのことでした。全24ラップ中、雨は一度もやむことなく、最高気温は14°C (57°F)、路面温度も15°C (59°F)以下という低温下でのレースでした。​

このときの快挙をドヴィツィオーゾは非常に喜んでいます。「ドライ時と同じようにブレーキが安定するので、画期的な朗報ですよ。僕みたいなオーバーテイク勝負の選手にとっては大きいですね。もちろん、この状況でのレース構成や、すごく冷えている時にブレーキの適温を保つことは簡単ではないですけど、今回のことは実に大きな前進だと思っています。」​

2018年のバレンシアGPで、ドヴィツィオーゾは、カーボンディスクで雨天のレースを闘って再び勝利をあげました。「条件としてはぎりぎりだったけど、なんとか使いこなせました。(赤旗中断で)間があいたときに、マシンの調整でブレーキを若干強めにしてもらいました。」​



 
 

 

過去そして未来​


ドヴィツィオーゾとブレンボ製ブレーキとの関係は10年以上続いています。「125ccクラスと250ccクラスの頃は、ブレーキをカスタマイズする余地はほとんどなかったです。セッティングを自分好みに変えたらそれで安心していました。だけどMotoGPに上がってからは、何もかもレベルが高くて、ここ10年はブレーキが大きく変わっていきましたよね。ディスクが大きくなって、制動面の高さも上がって、いろんな組み合わせが試せるようになった。キャリパーも技術が画期的に進化したし、どの選手にも選択肢が広がった。僕らは無限に向かって進んでいる感じがしますね。」​

​優秀な選手は誰でもそうですが、ドヴィツィオーゾも愛車のブレーキ担当の技術者に対して事細かにリクエストします。「レスポンスを最大限に高くしてほしいのと、ブレーキが効く前のレバーの遊びを最小限にしてほしい、これが僕の好み。ブレンボさんには長年僕の要望に懸命に対応してもらっています。イタリア製のマシンにイタリア製のブレーキを積んで戦うと、いい結果が出たときの喜びも倍増しますね。」​