
そうしたキャリパーの多くには、フェラーリやポルシェ、ランボルギーニやBMWといった自動車メーカーのロゴがついていて、それを再塗装してブレンボのロゴに変え、怪しいブレーキディスクやブレーキパッドなどのパーツと組み合わせて、キットの形で売るのです。
この場合、キャリパー自体は確かにブレンボで高性能に作られたものであり、さしあたって問題はないように見えるかもしれませんが、キットとなった場合は危険な場合があります。こうしたキットにはご注意くださるようわれわれがおすすめする理由が3つあります
第一に、車への適合性が疑わしいこと。ブレンボはキャリパーを製造する場合、対象の車に合わせて設計(したがって製造もテストも、車両の重量や組み合わせるマスターシリンダーの種類、ABSなど、その車の特性に基づいて実施)していますので、別の車で問題なく動作するとは考えにくいのです。
アップグレードキットでも同様です。パワーが上がっているのだから純正品より高性能だろうと単純に考えてしまうのは大間違いです。ある車種に最も適するように構成したブレーキパーツの組み合わせが別の車種ではパワー過剰になってしまい、ブレーキが効きすぎたり電子部品が常時動作状態になったりして、使い心地の不満が高まる結果を招く可能性があります。
第二に、再塗装による危険です。キャリパーの塗り直しを素人がやっているケースが多いのです。ブレーキキャリパーの塗装は、思わぬ危険が常につきまとう、手腕を要する作業です。正しく作業できる職人がわれわれ以外に全くいないとは言えませんが、「いい加減」な塗装が原因でキャリパーが故障したという報告はますます増えてきています。
当然のことながら、キャリパーが壊れる原因は、塗装そのものではなく、油圧関連部分の準備作業にあります。ピストンの分解と再組立が正しく行われていない例が数多くあり、全く行っていないケースさえあります。その場合、キャリパーに塗装して焼き付けを行うと、熱でピストンシールが損傷し、キャリパーの性能が損なわれてしまう可能性があります。
最後になりましたが、しかし重要なことです。危険を知らせる3つ目の要素は、キャリパーが販売されているキット内の他のオリジン要素が疑わしいということです。
ブレンボが関与していないディスク、ブレーキパッド、およびアダプターブラケットが候補として挙げられるでしょう。
ブレーキとは、システムという観点からすると各コンポーネントが完璧な役割を果たすことで初めて性能を発揮します。
ある部分が粗悪な品質であれば、システム全体のしかるべき機能が損なわれる可能性が十分にあります。
だからこそ、準偽造品にはご注意いただきたいのです。いんちきで危険なのは、各パーツそのものではなく、ブレンボの正規品を混入させたキットなのです。たとえ偽物が一部分のみであっても、性能と安全の観点からは、そうしたキットが100%危険であり、信頼性に乏しいということに変わりありません。
ブレンボのブレーキシステムは、アップグレードキットを含めてすべて、車の重量、車輪周辺のパーツのレイアウト、電子部品、タイヤ、本来のマスターシリンダーなどの車の特性を徹底的に分析したうえで、対象の車両に適合するように設計されています。 したがって、ブレンボのアップグレードキットは、設計もサイズ決定も製造もテストも、対象の車両での完璧な動作を目的としています。そのため、紛れ物のない完全なブレンボのブレーキシステムを、設計対象とは異なる車に装着して使う場合でも危険である可能性があります。
こうしたことからも、われわれはブレンボ公認の有資格の取扱店をご利用になることを一貫してお勧めしています。ブレンボ公認の有資格の取扱店では、技術面でのアシストを提供できることはもちろん、ブレンボキットは対象機種専用品のみを扱っています。正真正銘の正規品が確実に見つかるうえ、愛車に適した正規のブレンボのブレーキシステムを購入でき、見当はずれなものをむやみに取り付けてしまうのを防ぐことができます。
レトロフィットと「中途半端」の違い
自動車の世界では、愛車の独創性を上げるためのわずかな改造はごく当たり前のことで、他の車種用のパーツを本来の設計対象とは異なる車に採り入れることがあります。これはレトロフィット、カスタマイズ、部品取り、チューニングなどさまざまな呼び方がありますが、われわれが「中途半端」と呼びたいものはそれらとは全く違うものです。
ブレンボでは、それぞれの車専用に設計されたものではないブレーキパーツを各種組み合わせることは、理想的な解決策ではなく場合によっては危険であると考えています。したがって、そうしたことは避けるようブレンボは強く忠告しています。とはいえ誰であれ、出処や当初の設計対象の車種に関わらず、自分の愛車にベストだと考えたことを購入したブレンボ製品で実施するのはその人の自由です。
ブレンボの工場から出荷された新品のブレーキキャリパーで他の車種用に設計されたものを、特性や出処の異なるパーツと併用することがキャリパーの混用だと言いたいわけではありません(ただ、上述のとおりブレンボはそれをしないよう忠告しています)。
しかし、粗末な怪しげなものを組み合わせてそれを100%ブレンボ製システムの正規品だとして、あたかもブレンボで試験・承認済みのキットであるかのように偽って流通させ、ブレンボのキットが手に入るのだと心から信じている買い手の純真さと善意につけ込んで売ることは、違法です。
われわれが「中途半端」と呼ぶのは、クルマの愛好家が愛車のブレーキをカスタマイズするために、自分のしようとしていることやその結果を十分に理解したうえで、出処の異なるパーツの組み合わせを購入しようと決心した、その時のことではありません。ブレンボが製造した純正品は一部分だけなのに100%ブレンボの正規品だとしてブレーキシステムを流通させ販売する時のことを指します。
この類の商品と対象車種専用に設計とテストを実施したブレンボのブレーキシステムのアップグレード製品との違いをはっきりと示すことは、われわれにとって責務だと考えています。ブレンボのブレーキシステムをお買い求めになる方で、完璧に正規品のみで構成されたブレンボのキットを見分けられない方々がブレンボ製のパーツを含んではいても生産工学やテストを踏まえておらず正常な動作の保証が一切ない粗末なキットを買ってしまうことのないように、われわれはお守りしなければなりません。