24時間耐久レースの勝利をアシストした2mm

2022/06/09

 ブレンボが常に研究開発に投資を続け、世に送り出してきたブレーキパーツが世界的な基準となっても、決して満足することなく、より良いものを探究する姿勢は続いています。純正部品やアップグレードパーツはもちろん、サーキットやオフロードのレースパ-ツでも研究開発を行っています

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​ブレンボが常に研究開発に投資を続け、世に送り出してきたブレーキパーツが世界的な基準となっても、決して満足することなく、より良いものを探究する姿勢は続いています。純正部品やアップグレードパーツはもちろん、サーキットやオフロードのレースパ-ツでも研究開発を行っています。 


サーキットで行われる耐久レースには、競技時間中の効力と信頼性をいかに両立させるかという高難度の課題があります。競技時間はスーパーバイク世界選手権では30分を少し超える程度ですが、MotoGPでは40~45分、さらに長い8時間以上の耐久レースや、丸一日かけて行う24時間レースとなると、難度が全く変わってきます。



 

​2021年にブレンボは、FIM世界耐久選手権(EWC)で、自社が製造するEndurance24キャリパーとZ03ブレーキパッド、Tドライブブレーキディスク、GP 19×18ラジアルマスターシリンダーを、スズキGSX R-1000に供給、ザビエル・シメオン、シルバン・ギュントーリ、グレッグ・ブラックの3人が乗り継ぎ、フランス開催の24時間レース2戦での勝利とシリーズを制覇しました。 


歓喜のムードが明けたヨシムラSERT Motulは、さっそくセッティングの改良に向けた取り組みを再開。ブレンボ製パーツはパフォーマンスおよび耐久性に優れていることは実戦で確認済みなので、次なる課題は周回数をいかに増やすかでした。 ​


 

 

耐久レースで走る距離が伸びれば、ライバルチームが追随したり先行したりするチャンスを減らせます。しかし、距離を伸ばすには、長距離をバイクで走る人ならご存知のとおり、ピットストップをなるべく減らす、つまり回数や所要時間を少なくする必要があります。 


そこで出番となったのが、マシンのシャシーの質に影響を及ぼさず、ピットストップ時間を減らす解決策を追求してきたブレンボの一連の研究です。ブレーキはバネ下重量であるため、軽いほど制動力や加速、旋回や切り返しのマイナス効果は少なくて済みます。 


ところが、ブレーキシステムを小さくすると、マシンに必要な制動力が十分に得られなくなってしまいます。あるいは、ディスクやキャリパーが小さいことでオーバーヒートを招くか、摩擦材が摩耗しきってしまい、ブレーキのライフが短くなってしまうことになります。 ​










この難局を切り抜けたのが、新バージョンのGP4-Enduranceキャリパーでした。実戦デビューは、今期FIM EWCの初戦、2022年4月に開催された第45回ル・マン24時間耐久レース。ヨシムラSERT Motulのスズキのマシンをブラック、シメオン、ギュントーリが乗り継ぎ、1分45秒582の差をつけて勝利しました。​

 

 

この結果をもたらしたのは、彼ら3人の手腕とGSX-R1000Rのスピードやシャシーの性能であることはもちろんですが、メカニックたちの技術力、そして、ピットストップ時間の短縮を可能にした、ブレンボの耐久レース用新バージョンキャリパーの特性も貢献しています。2021年のEWCでは、ブレンボ製キャリパーの交換が6時間ごとだったのに対し、今回の新バージョンでは8時間ごとでした。​


 

 

実際のところ、キャリパーの摩耗が4セットから3セットに減ったことで、明らかな時間のメリットが得られました。これにはブレーキパッドのピストンへの固定に採用したチタン製ラジエーターが貢献しています。今回の2022年ル・マン24時間耐久レースでは、メインクラスのとあるチームがスタートから6時間も経たないうちに(ブレンボ製ではない)ブレーキキャリパーの交換を要したためにピットで貴重な時間をロスしました。ヨシムラSERT Motulはその機を逃さず差を25秒以上も詰め、先の展開へつなげていきました。 


この成果は、新たなブレーキパッドと、世界選手権のプレミアクラスでの経験をもとにして、キャリパー本体に沿って設けた空冷フィンがもたらしたものです。このフィンはブレーキシステムのヒートエクスチェンジを向上させて、放熱性を促す働きがあり、この特性は耐久レースでは非常に重要です。 ​​


 

 



フィンに加え、新バージョンのGP4-Enduranceキャリパーは、MotoGPやスーパーバイク世界選手権で使用中の、同じGP4の名を冠したモデルをベースにしています。アルミニウムのインゴットから削り出したモノブロック製のボディーに32mmと36mmの異径4ピストンを配し、ニッケルメッキで仕上げました。 


連続で8時間、ブレーキを持たせるために、ブレーキパッドは前バージョンのキャリパーより2mm厚くしました。このZ03 Enduranceブレーキパッドにも、ブレーキシステム全体の放熱性を向上させるフィンを設けています。 ​


 

たとえキャリパーを2時間長持ちさせたとしても、レース序盤・中盤・終盤それぞれで7~8時間経過後は制動力が下がってしまうという恐れはありました。言い換えると、キャリパー交換を1回減らすというメリットには、スタートから7~8時間、15~16時間、23~24時間の計6時間にマイナス効果が出てしまう可能性が潜んでいたのです。 


当初は試みても価値があるとは思えませんでしたが、キャリパーの寸法を設計し直し、キャリパーとブレーキパッドに空冷フィンを新たに設けた結果、温度を抑えながら性能が長続きするブレーキパッドの利点と、バネ下重量増加による大きな影響を回避することとの両立に成功しました。 ​


 

性能の向上は設計段階ですでに明らかで、ベンチ上とサーキット上で試験を数百時間実施し、確認したうえで、ル・マン24時間耐久レースでの使用許可を得ました。他にも、ブレンボがブレーキ操作に深く関わる新技術として採用したのが、RMC billet GP 19×18マスターシリンダーです。インゴットからの削り出しで成形したこのマスターシリンダーは、最高の性能を発揮することを目標に設計・開発されたもので、ブレーキレバーを握る力とブレーキシステムの応答が非常にリニアで、抜群のレスポンスが得られます。​


 

蒸し暑さや降雨、夜間の冷えなど耐久レース中に遭遇するどんな状況でも高い性能を発揮するのはもちろんのこと、RMC billet GPマスターシリンダーは、レバーの位置に、性能を最大限に発揮し持続するMotoGPの基準に沿った遊び量調整機能を備えているのも特徴です。それぞれニーズや好みが異なる3人のライダーが1台のマシンに乗るレースでは、このマスターシリンダーのパフォーマンスも大きく貢献しました 。​


 

他のメーカーは現状でよしとする中、革新的な新技術を生み出すブレンボの力が、改めてル・マン24時間耐久レースの着順に明確に出た形です。デビューをこの重要な勝利で飾ることができたGP4-Enduranceキャリパーは、ソリューションプロバイダーとしてのブレンボの力を改めて示すとともに、耐久レースというカテゴリーでの新たなスタンダードになっていきそうです。