2017/05/15
In 1985年、ブレンボは、ブレーキシステムの画期的な新技術に関して初の特許登録を行いました。それがラジアルマスターシリンダーです。 製品化の第一号はレース専用品でした。競技用バイクにはスペースの制約があるため、コンパクト化が開発設計上の重要な課題でした。 ラジアルマスターシリンダーという新たなコンセプトを生み出したことで、小型でありながらブレーキレバーの効力を大幅に向上させたブレーキシステムが実現したのです。
このシステムの際立つ特徴は、圧力を伝える構造にあります。レバーに加えた力が数々のパーツへ分散して摩擦損失を発生させないよう、ピストンに対して力がダイレクトにかつピストンと同じ向きで伝わる構造になっています。ラジアル方式では、ピストン軸をレバーの操作方向と平行に、ハンドルパイプに対しては直交する向きに配置します。この方式には数多くの利点がありますが、そのひとつとして、油圧とメカの比を最適化して性能の向上を図れることがあげられます。
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MotoGPのように競争が激化しているカテゴリーでは、トップの座を維持することは至難の業です。ここ5年間の表彰台は、ライダー6名、メーカー2社で交互に奪い合いました。唯一その座を明け渡さなかったのはブレンボです。 2011年から現在までのグランプリ89戦で、89回の優勝を果たしました。これは偶然の産物ではありません。エンジンのサイズ変更、CRTマシンの採用、ブレーキディスクのサイズ変更といった新たなレギュレーションに対応するために、つねに技術革新を求めてテストを重ねるブレンボだからこその功績です。
翌1986年にはラジアルマスターシリンダーはすでに実戦での使用が始まっていました。搭載したマシンはヤマハYZR OWで、ライダーはアメリカ人のエディ・ローソンです。同年のMotoGPの500ccクラスでチャンピオンの座に輝いています。彼はラジアルマスターシリンダーならではのストレートな感触にたちまちほれ込み、ブレンボに対し、ぜひ開発をさらに進めて、浮上してきた若干の課題も解決してほしいと要望しました。
1988年には新たに2件の特許技術を第一号に盛り込み、現在の形に非常に近いラジアルマスターシリンダーを完成させました。それから14年後の2002年には、ラジアルマスターシリンダーがついに量産車に初搭載されました。アプリリアRSV 1000です。 2007年、ブレンボは、画期的な新技術を満載した新型のブレーキマスターシリンダー、19RCSを発表しました。この19RCSの登場で、ラジアルマスターシリンダーは新たな世界に踏み出すことになりました。ブレンボの特許技術であるこのラジアルマスターシリンダーは、MotoGPマシン用の設計技術を反映したもので、画期的な調整システムを採用しているのが特徴です。ライダーのあらゆる要求に応えられるよう、マスターシリンダーのパフォーマンスを状況に合わせて調整できるようになっています。
それまでのブレーキマスターシリンダーは、アフターマーケットの選択肢は2タイプのみで、レース用もしくは公道用のどちらかを選ぶしかありませんでした。公道走行中心のライダーにおもに選ばれたのは、19×20mmの公道用マスターシリンダーです。路面が理想的なコンディションでないときは、レバーはじわりと握り込む感触で、柔らかめのレスポンスです。一方、握ったとたん強い制動力を発揮する19×18mmのレース用マスターシリンダーは、百分の1秒単位でラップタイムを競うライダーに選ばれました。一般的な目安として、19×18mmは径が32/36、34/34または30/34の4ピストンキャリパーを装着したバイクに最適で、その他のキャリパーを使用しているバイクには19×20mmが向いています。
この2つの異なる世界を、ブレンボはひとつの製品に統合することに成功しました。アジャスターをドライバーで回すだけで簡単に切り替えることが可能になったのです。 ブレンボ19RCSラジアルマスターシリンダーに搭載したRCS(Ration Click System:レシオクリックシステム)は、マスターシリンダーの基本性能を切り替えるという画期的な方式で、ライダーの好みに合わせてブレーキ の感触を調整することが可能です。ブレーキレバーの効力を増減することで、路面がドライかウェットか、またはグリップが高いか低いかといったコンディションはもちろん、ライディングスタイルにも合わせてブレーキの特性を切り替えることができます。 ダブルブレーキディスクのバイクであれば車種を問わず19mmマスターシリンダーが使用でき、レバーの握りしろが若干深いため効きのコントロールがしやすい19×18mmと、ストリートバイク本来の感触が得られる19×20mmの2種類の切り替えが可能です。
1台2役という画期的な特徴を持つこのマスターシリンダーでは、レバ-レシオを18mmと20mmから選択でき、切り替える際はレバーの前面にあるアジャスターをドライバーで180°回します。カム機構の働きで、マスターシリンダーのプッシュロッドとの接点と支点の距離が2mm増減します(赤は18mm、黒は20mmを示します)。これにより、パワーの観点からみたブレーキシステムのパフォーマンスはそのままに、制動力の配分をコントロールすることが可能です。
ブレンボのRCSは、バイク愛好者にとっての新たなスタンダードとして期待を集める新シリーズ、ブレンボ19RCSコルサコルタマスターシリンダーの全製品に採用されています。