2017/06/14
過去40年間F1への技術協力を続けてきたブレンボは、耐久レースへの貢献も歴史が長く、ル・マン24時間レースでブレーキシステムの供給を行ってきました。ブレンボ製ブレーキシステム搭載車による優勝が過去28年間で25回という輝かしい戦績を誇っています。近年はマシンの進化が著しく、エンジンだけをみてもガソリンからディーゼル、さらにはハイブリッドへと移行しましたが、その間ブレーキシステムも常に改革を続けてきました。かつては理想のブレーキシステムとはマシンをいかに効率よく減速できるかがすべてでした。ところが近年では、ブレーキが加速やコーナリングの速度にも大きく影響するようになってきました。この背景にあるのが、信頼性と耐久性を維持しつつ小型化とバネ下重量の軽量化を実現したブレーキシステムの登場です。
最近のLMP1で使用されているブレーキシステムは、ブレンボが導入した技術改革によって概要が変わり、各パーツに進化が生じています。近年耐久レースで用いられるようになったカーボンディスクでは、摩耗の低減と耐久性の向上という大きな進化が実現しました。24時間レースでは、消耗したディスクの交換をいかに減らすかが貴重な時間を節約するうえで非常に重要です。
ブレンボはディスクの摩擦材に新素材を導入することで、摩耗を大幅に減らすとともに熱伝導の効率を向上させることに成功しました。その効果は早くも2001年に出ています。チームヨーストのフランク・ビエラ、エマニュエル・ピロ、トム・クリステンセンがドライバーを務めるアウディR8が、ブレーキディスクとブレーキパッドを一度も交換することなくチェッカーフラッグを受けています。路面のコンディションが常に変化するレースでは安定した制動力の持続が非常に重要ですが、優れた低摩耗性がそれを実現しました。
ブレーキキャリパーに関しては、重量と剛性のベストバランスの追求にブレンボは総力を注ぎ、ブレーキの信頼性を維持しつつキャリパー本体の軽量化と剛性の最大化の両立を目指しました。 徹底した研究を経て、2006年には、モノブロック製法のアルミニウム/リチウム合金製キャリパーを導入しました。それまで使われていたアルミニウム製キャリパーと比較して、重量と剛性の面で大幅な改善を遂げたキャリパーです。単一素材のインゴットから削り出すこの製法のキャリパーは、耐久レースのフォーミュラカーには最適のソリューションです。
ベルハウジングとアウターローターとの接合部にもブレンボは新技術を採用しています。LMP1で10年ほど前まで使われていた金属製のフローティングピン(LMP2ではコストの理由で現在も広く使用)はカタカタ音がするタイプでしたが、2008年以降はスプライン形状の接合部品に移行しました。 これはF1マシンで採用されている技術を応用したもので、チタン製のベルハウジングに隣接するディスクで直接引きずりや制動を行い、接合部品(金属製のフローティングピン)を介しません。この技術には重量に加え制動力の伝導性の面でも大きなメリットがあります。また、ベルハウジングの接合部が吸気口の障害となる問題が起きたためにそれまでの数年間で換気の規定が厳しくなっていました。現在は、スプラインすなわち歯車状の接合部品を導入したことで、ディスクの内側に空気が流れるようになっています。
近年ブレンボが特に着目してきたのは、バネ下重量を極限まで減らすためのディスクとブレーキパッドの小型化です。ほんの10年前までは厚さ35mmだったプロトタイプカーのディスクは、現在は厚さが30mm~32mmになりました。同様に、カーボン素材のブレーキパッドも厚さが31.5mmから26mmにまで減りました。わずかな差に思えますが、LMP1のプロトタイプカーでは、1kgの重量削減で1周あたりコンマ数秒の違いが出てきます。 一方、GTカー(GTE、GTE-pro)では、カーボン素材のブレーキパッドはレギュレーションで明確に禁止されています。そのためブレンボは、GTカーには鋳鉄製ローターにアルミニウム製ベルハウジングを組み合わせたブレーキディスクを供給しています。これらは、少なくとも素材に関しては現在の市販車用のものとほぼ同様です。ブレンボは様々な種類のローターを用意しており、各チームはブレーキパッドと併用した際の噛みの強さや耐久性に合わせて好みのローターを選択できます。
F1 vs ル・マン:ブレンボ製ブレーキシステムの比較
LMP1クラスのマシンとF1マシンでは、ブレーキシステムに相違点と類似点があります。ブレンボがそれぞれに供給しているシステムについて比較してみましょう。4輪のプロトタイプマシンの2大レースとして揺るぎない地位にあるF1とル・マン24時間レース。参戦する各メーカーの開発競争は近年ますます熾烈を極め、搭載するエンジンが1,000馬力を超えるマシンも登場してきています。
ブレーキディスクのサイズは、各チームのチョイスや車両のバランスによってフロントとリアで大きく異なります。ブレンボはモノブロックキャリパーも数多くのGTのチームに供給しています。製法は鋳鉄など単一素材のインゴットからの削り出しですが、設計は耐久レースに特化して行っています。 ブレンボはGTカー、すなわちポルシェ、フェラーリ、アストンマーティン、コルベットやダッジなどのスーパーカーに特に注力していますが、これらの車種は多くが公道仕様車でもブレンボ製のブレーキシステムを採用しています。この場合、ブレンボには二重のメリットがあります。1つには、標準仕様のブレーキシステムの改良が図れること、2つめは、標準仕様をもとにこれらのレースカー用に展開することです。サーキットでリサーチを行うことで、標準仕様のブレーキシステムの製造が早く済む場合もあります。こうしたことも理由となって、例えば昨年は、1966年の初優勝以来50周年を迎えたフォードがGTEカテゴリーで、タイムの短縮をアシストするブレンボ製ブレーキシステムを採用して優勝を果たす喜ばしい出来事がありました。またGTE Amカテゴリーでもフェラーリ458イタリアの勝利にブレンボが貢献しています。