父ミハエルと息子ミック、シューマッハ親子がともにブレンボで優勝!ただし二人にはこんな違いが…

2018/10/26

 この父にしてこの子あり。シューマッハ親子が重ねた勝利、そこに常にブレンボのブレーキが存在するのは父も息子も同じです。

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ミハエル・シューマッハは、2006年のシーズンを最後にF1を引退しました。残した戦績は、グランプリ優勝91回、ポールポジション68回、ワールドチャンピオン7回という輝かしいもので、そのすべてをブレンボ製ブレーキ搭載マシンで実現しています。これらの偉業をいったい誰が引き継ぐのかに人々の関心が集まりました。その時、後継者となり得るドライバーがまさか身内にいるなどと誰が想像できたでしょうか。無理もありません。なぜならミハエルの息子ミックは当時まだ7歳で、カートレースを始めるのはその2年先だったからです。


 

ミックは、その後絶えずパフォーマンスを向上させ、極みに達した今シーズンはついにヨーロッパF3の世界タイトルを獲得しました。この輝かしい成功の舞台となったのは10か所のサーキットで、そのうちの半数は2018シーズンのF1の開催地でもあり、父ミハエルがかつて走ったサーキットでもあります。ファミリーの伝統を引き継いでミックもブレンボ製ブレーキのユーザーですが、パーツのコストに大きな違いがあります。

 

 

ミハエルはブレンボのカーボンセラミックディスクを使用していましたが、F3ではブレーキディスクは鋳鉄製と定められています。この件を含めレギュレーションが主眼に置いたのはコスト削減で、ブレーキを含めて性能には目をつぶった形です。F2にランクアップすると、カーボンセラミックディスクが使用でき、さらに上のF1に向けての準備が整っていきます。

 

ミハエルはF2時代を経験しませんでしたが、メルセデスのドライバーとしてF1に参戦する前に、カーボンセラミックディスクを十分に試せる時期がありました。1990年、メルセデスは、世界スポーツプロトタイプカー選手権に出場するC11のドライバーの一人としてミハエルと契約を交わしました。730馬力、重量905kg、ブレンボのカーボンブレーキシステムを搭載した超大型マシンを操ってミハエルはメキシコ戦で見事優勝し、続く2戦もそれぞれ2位を獲得しました。

 

 
 

1991年の夏、スパ・フランコルシャンでエディ・ジョーダンがチームのデビュー戦を迎えたとき、すでにミハエルは、ブレンボのカーボンセラミックディスクの使い方を完璧に体得していました。彼の強さはその時点から上昇の一途をたどり、いまも破られていない大記録を次々と積み上げていきます。そのうちの一つが、アルデンヌの森を駆け抜けるテクニカルなスパ・フランコルシャンでの6勝。ベネトンへ移籍後の1992年に果たした自身初のF1優勝も、このスパ・フランコルシャンでした。もちろんブレーキはブレンボ製でした。

 

今から26年前のその日、ミハエルは、路面が乾きはじめたとたんピットに戻りドライタイヤに履き替える戦略に打って出て、最後はフィニッシュラインでアイルトン・セナをかわして優勝しました。路面の一部はまだウェットだったにもかかわらず、ミハエルは一切のミスなくブレーキを操り、抜群のドライビング感覚を発揮して、自身のF1参戦わずか18戦目にして優勝を果たしたのです。


 

そのスパ・フランコルシャンで、2018年7月28日、息子ミックは自身初のヨーロッパF3優勝で返り咲きを果たしました。スタートは6位からだったものの、乾湿が入り交ざる路面コンディションを父譲りの巧みさでフルに活用して勝利にこぎつけました。最終ラップでは、先行する2車にぴったりつけ、ラ・スルスを完璧にクリアして続くラディオンでまず1台を、残りの1台をレ・コームでオーバーテイクし、そのいずれでも危うさは一切見せませんでした。

 

カーボンと鋳鉄、この2種類のディスクやパッドの素材では、制動距離や減速性能は比較にはなりません。カーボンは摩擦係数がはるかに高く、重さは非常に軽量です。鋳鉄とは異なり、パッドとの摩擦は1種類の成分が別の成分に微小なレベルで融合することで生じ、その過程で摩擦による削りカスは一切発生しません。

 

 

ベネトンへの加入時からフェラーリ在籍時代までミハエルを担当してきたブレンボの技術者は、ミハエルについて、彼ほどメンタルが研ぎ澄まされたドライバーは他にはいないと言います。あれほどの高さまで決断力のレベルを上げた状態で同じラップタイムを何周も維持するには、ブレーキシステムに関する感覚が非常に鋭敏であることと、ブレーキシステムを自分のドライビングスタイルに完璧に適合させていることが求められます。


 

ミハエルが選んだのは、衰えを全く感じさせない、シャープで応答の早いブレーキペダルでした。また、ブレーキシステムに対してはレッドライトがすべて消えるスタートの瞬間からチェッカーフラッグまで低下の兆候を一切出さず性能が安定的に続くブレーキシステムを強く求めました。体格は大柄ではなかったものの、ミハエルのペダルを踏む力は相当なものでした。

 

 

ミハエルの使用したブレーキとミックのブレーキのもう一つの大きな違いは、交換の頻度です。ミハエルはF1のフリー走行の最終回に近づくと、ブレンボのブレーキを一式新しいセットにしました。これで摩擦力をさらに増やし、ライバルより優位に立つことが狙いです。ミックの場合は、レギュレーションが異なり、予選から決勝までブレーキディスクは同じセットを使用しなければなりません。すなわち、1セットを3回のレースすべてで使用することになります。

 

それでも鋳鉄の場合、摩耗はカーボンよりも少ないため、今年ミックが使用したのは18mm厚のディスク、つまり現在F1で使用されている32mmディスクの半分を若干超える程度の厚さです。2016年までは、F1のディスクは28mm厚で、その差はあまり顕著ではありませんでしたが、タイヤが幅広になってパフォーマンスが向上したため、ディスクの径を上げることになりました。

 

F1とF3のマシンでは、ディスクのベンチレーションホールに関してもテクニカルな観点から大きな違いがあります。F1のマシンにブレンボが現在供給しているディスクでは、穴の数は最高で1,400個、個々の径が2.5mmの穴を4列に配置しています。そのすべての穴を、公差100分の4ミリという極めて高い精度で、ディスク1枚あたり12~14時間をかけて機械加工しています。

 


 
 

ミハエルが現役の頃は、ベンチレーションホールの研究はそれほど進んでおらず、彼が最後に所属したフェラーリ時代でもディスク1枚で個数は100個程度でした。現在のF3で使用しているディスクにはベンチレーションホールはなく、代わりに従来型の冷却フィンが、用途によって24本から48本施されています。熱伝導性の高さを求めるなら明らかにベンチレーションホールに軍配が上がりますが、コスト削減の制約からこの点にも目をつぶる必要があるのです。

 

F1とF3では要求される制動力も異なり、それがキャリパーにも反映されています。ブレンボが現在最有力のF1チームに供給しているキャリパーは、3種類の金属の合金を使用したアルミニウム・リチウム合金キャリパーで、重量と熱耐性を変えて使い分けられるようにしています。それらのキャリパーはいずれも、マシン内部の冷却システムや、チームごとに設計が異なる空力ソリューションとシームレスに一体化していなければなりません。

F1マシンが搭載しているモノブロックキャリパーは、インゴットからの削り出し製法を採用しています。この製法は、ブレンボが1980年代にスクーデリア・フェラーリ用のキャリパー向けに世界で初めて採用しました。現在のモノブロックキャリパーの仕様は、フロント6ピストン、リア3ピストンとなっています。一方、ミックのマシンの場合、直近の2シーズンでは、製法はモノブロックですが素材は鍛造アルミニウムで、ピストン数はフロント、リアとも4本です。また、F3のマシンにブレンボが供給しているキャリパーは、全チーム、全30戦同じものです。


 

F1では、各チームがそれぞれ好みの設計に合わせてカスタマイズしたキャリパーを使用しています。ミハエルの現役時代は、サーキット別のキャリパーが検討できないか要請されるほどでしたが、緊急の場合、別のサーキット用に設計したキャリパーに交換することができないために、組織的な問題を招く結果になりました。また、2000年までは、ミハエルのキャリパーは素材にベリリウムを使用していましたが、ベリリウムはコストが高すぎることからその後FIAが使用を禁止しました。


 

​ここまで父ミハエルと息子ミックの比較をしてきましたが、この先数年以内に、さらに盛りだくさんの必見の情報をお伝えできる機会が必ず来ると信じています。頑張れ、ミハエル!頑張れ、ミック!

Keep Fighting Michael, Keep Pushing Mick.