ロッシvsマルケス:ブレンボが比較するブレーキングスタイル

2018/02/15

 初めて手にした優勝からごく最近まで、常にブレンボのブレーキで勝利を重ねているロッシとマルケス。ブレンボという同じ生まれ星のこの2人のブレーキングを詳しく解説します。

​​​​​バレンティーノ・ロッシが生まれたのは1979年2月16日。今年で39歳になります。一方、マルク・マルケスは、ロッシと1日違いの2月17日が誕生日。1993年生まれの今年25歳です。星占いでは水瓶座にあたりますが、2人のこれまでの輝かしいキャリアを通じて使い続けてきたブレーキのことを考えると、2人は「ブレンボ座」生まれと呼ぶべきでしょう。

2002年のMotoGPの発足以来、ロッシとマルケスは圧倒的な強さを誇っています。ワールドタイトルの獲得はロッシが6回、マルケスが4回。つまり、MotoGPクラスでは全優勝数の実に62.5%をこの2人だけで獲得していることになります。

 

 

2人は下位クラスである125cc、250cc、Moto2、もちろんかつての500ccでもそれぞれ優勝を果たしています。その間、ブレーキは常にブレンボを使用してきました(クラッチマスターシリンダーも何度も試しています)。通算でロッシが9回、マルケスが6回、合わせて15回もの世界制覇。この素晴らしい偉業をいい機会にして、ここで2人のブレーキングについて詳しくみてみましょう。


 

ブレーキングテクニックの違い

ロッシのブレーキングはオーソドックスに前輪がメインで、ブレーキレバーの右端を人差し指、中指、薬指の3本の指で握ります。ケーシー・ストーナーもこのスタイルです。一方、マルケマルケスのレバー操作は人差し指1本のみ。マーベリック・ビニャーレスやホルヘ・ロレンソはその中間のタイプで、人差し指と中指で握ります。

操作方法にこれがベストだというものはなく、あくまで各ライダーのハンドルの握り方しだいですが、腕を痛めている場合はそれも関係します。

 

 

一方で、スコット・ラッセルやケニー・ロバーツ・ジュニアのように、基本的には指1本で操作し、タイトなコーナーでは指2本で握るというスタイルのライダーもいます。

ロッシの駆るヤマハがブレーキングで後輪を浮かすシーンがテレビに映し出されることはめったにありません。ロッシは指3本で握りながらも、後輪がグリップを失わないよう前輪のブレーキを完璧にコントロールすることができるのです。

可能なのは、長年かけて研ぎ澄ませてきた彼ならではの優れた感覚があるからです。今年ロッシは23シーズン目を迎えます。その今日までの彼を、ブレンボのブレーキはマシンとともに支えてきました。 ​

 

 

一方、マルケスは、ダニ・ペドロサと同様に、後輪が浮くブレーキングでしばしばその不死身さぶりを披露します。これは前輪のブレーキングが強すぎて、少なくともそこで本来必要な強さを超えてしまうことが原因です。その瞬間に後輪が浮けば、路面とは前輪だけで接触することになり、マシンの傾きのコントロールは失われます。

リアブレーキの使い方についても、ロッシとマルケスとでは両極端と言えるほどの違いがあります。ロッシはクリーンなブレーキング。ライバルと比べてブレーキは遅めの傾向にあるにも関わらず、後輪がすべることはまずありません。一方、マルケスは、ブレーキペダルをフルに踏み込んであえて後輪をすべらせるようなコーナーワークが好みです。 ​


 

ブレーキシステムの進化

ロッシが初優勝したのは1996年の8月18日。チェコGPのブルノ・サーキットでした。当時のチームはAGVアプリリア、マシンはアプリリアRS 125。ホルヘ・マルチネスを0.245秒差で押さえての勝利でした。そのときのマシンは重量が71kg。エンジンは排気量124.8 cc単気筒2ストローク47馬力でした。

フロントのブレーキシステムは、アキシャルマウントの4ポットツーピースキャリパーと、制動面が標準タイプの径273mmカーボンディスクで、いずれもブレンボ製です。
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一方、マルケスの初優勝は2010年6月6日、ムジェロで行われたイタリアGPでした。レッドブル・アジョ・モータースポーツに移籍したマルケス。デルビRSA 125でニコラス・テロルから最後のストレートで0.039秒差の勝利をもぎとりました。

そのときのマシンは、マルケスの体重を含めた重量が136kg。排気量124.8 cc単気筒2ストローク50馬力でした。

フロントのブレーキシステムの構成内容は、ブレンボのアキシャルマウント対向2ピストンワンピースキャリパーと、同じくブレンボの、制動面が標準タイプの径218mmスチールディスクです。 ​

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1997年の暮れに250ccクラスにステップアップしたロッシは、ブレンボがアプリリアの協力をもとに新開発したラジアルマウントキャリパーを他のライダーらとともに初めて試してくれました。イタリアのノア―レに拠点を置くこのアプリリアでは、ライバルメーカーに差をつける新たな技術を探し続けていたところでした。

このラジアルマウントキャリパーは、ロリス・カピロッシが1998年の250ccクラスを制覇するという好結果を受けて、500ccクラスでも採用されることになり、その500ccへロッシはチャンピオンを手土産に2000年から参戦。それまでのアプリリアで感触に慣れていたロッシは、数カ月で何の問題もなく使いこなすようになりました。

マルケスがラジアルマウントキャリパーを使い始めたのはまずはフロントからでした。というのは、125ccクラスとMoto2ではリアがアキシャルだったからです。ただ、フロントキャリパーに関して言えば、マルケスは2015年まで使用が認められたアルミニウム・リチウム合金キャリパーと、最近のレギュレーションの変更でアルミニウムのみとなったキャリパーの両方でチャンピオンを獲得しています。

何といっても、マルケスという選手は、ウェットコンディションにもかかわらずカーボンディスク(ブレンボ製)を使用しての勝利という、500ccとMotoGPを通じて初の快挙を成し遂げたライダーです。2017年9月10日、ミサノで行われたサンマリノGPで、スチールディスク使用のドゥカティに乗るアンドレア・ドヴィツィオーゾとダニロ・ペトルッチを見事にかわしての勝利でした。