再塗装したブレーキキャリパーを使ってはならない5つの理由

2016/10/04

 ブレンボの厳格な製造手順を踏まえずに塗り替えたブレーキキャリパーは、危険で信頼性に乏しく、見た目も劣ります。

美しい色は目と心を楽しませてくれます。それはキャリパーでも同じこと。 ブレンボは、1980年代の初頭にカラー塗装のキャリパーを初めて設計・製造しました。これが世界中で大人気を呼び、ブレンボの赤いキャリパーはトレードマークとなりました。そしてモータースポーツ界全体において他の追随を許さない存在感を発揮し、高性能の象徴と認識されるまでに至っています。

今日ブレンボが扱うキャリパーの色は、OEM供給とアフターマーケット向け製品を合わせると40色以上にのぼります。その全部ではありませんが多くの色では、配合する顔料が光や部位に対して耐性が低いことがあります。また、温度が上昇すると変色する顔料もあります。つまり、ブレンボがある特定の色でキャリパーを製造しないとしたら、そこには理由があるのです。


 
Painting Caliper


 

​​​このキャリパーカラーはブレンボの塗装ではありません。


ところが、世界中には、奇抜な着色や装飾をほどこしたキャリパーが数多く出回っています。ブレンボのブランド名を誇らしげにうたったものまであります。このようなキャリパーの再塗装は、一切ブレンボは行っていません。ときどき熱狂的なファンが、ブレンボのオプションカラーを真似したい一心で、自分で塗ってみたり業者に塗装を依頼したりすることはあります。


自分で塗ったり、再塗装した非常に安価なキャリパーを買ったりして最初は安くあがったと喜んだものの、それはすぐに落胆へと変わるはずです。正規のメーカー以外の第三者が再塗装したキャリパーは、深刻な問題を引き起こすからです。再塗装したキャリパーには手を出さないことが肝心です。


その理由を5つ挙げてみましょう。


 

1) 再塗装前のキャリパーの素性

再塗装をする人は、新品のキャリパーを使うことはまずありません。多くの場合、中古のキャリパー(廃棄車、走行距離何万キロもの中古車、ときには盗難車のもの)に対して塗装します。過去にどんな使われ方をしたかわからないブレーキなら、正常に機能するかどうか怪しいものです。そうしたものを買うのは、賢い選択とはとても言えません。


 
Painting Caliper


 

​​​このキャリパーカラーはブレンボの塗装ではありません。

2) キャリパーの効力と適合性

おそらくは愛車とは違う車種から抜き出したものなのに、スペアパーツとしてその「新品」のキャリパーを買って、好みの色を塗り、愛車に装着するのを名案だと思うなら、それは大きな間違いです。自動車のキャリパーは、特定の車種で機能するように設計されます。設計対象以外の車種で使えるものでは決してありません。たとえ新品をベースにして塗装したキャリパーであっても、装着した車両には合わないということもありえます。その点については、こちらの記事をご覧ください。https://blog.racetechnologies.com/.../can-i-use-subaru.../ 特定の車種のブレーキシステム用に開発されたキャリパーを他の車種に装着すると危険な場合があるのはなぜなのかを解説しています。

ブレンボが製造するブレーキは、対象の各車両に重量やエンジン、機械的特性を加えたうえで最大のパフォーマンスが得られるよう設計されています。車種に合わないキャリパーは、特定の条件下で制動力を十分発揮できなかったり、異音が出る、長持ちしないなどのトラブルが生じたりするおそれがあります。


 

3) 色の持続性

再塗装したキャリパーを購入するにせよ、思い切って自分で塗ってみるにせよ、その色がある程度の距離を走ったあとも果たして性能を維持できるかどうかはわかりません。部位によっては色が褪せたり、塗装がはがれ落ちたりすることがあります。急ブレーキの後でブレーキシステムが温度上昇しただけでもこれらの不具合は起こる可能性があります。


 

ブレンボの塗装は、長い時間をかけて丹念に行います。その工程はブレンボが年月を重ねて完成させたもので、エポキシ樹脂で下処理した上にポリウレタン塗料を重ねていき、透明のアクリル塗料で仕上げます。

塗装は専用のシステムを使用します。下処理塗装を3段階に分けて行うトンネル状の設備があり、スプレー用のブースと加熱炉も備わっています。下処理が済むと着色に進みます。専門の訓練を受けた技能者が手作業で塗装していきます。塗り終わったキャリパーは別の専用炉で加熱します。次の工程では、スクリーン印刷やパッド印刷の手法でロゴをつけます。
最後に透明の上塗りをかけて塗装工程は完了です。

Caliper green  

 

時を経ても美しさが持続する色を実現するために、ブレンボは手順のひとつひとつを厳格に実行しています。目的の色や塗料の種類に対して数々の環境試験を実施し、塗装が水やブレーキフルード、油などの液体やさまざまな環境条件(湿度、温度、熱衝撃)に耐えることを検証しています。また、岩などがぶつかった際の衝撃を含めあらゆる条件において塗装の耐久性が持続するか、また腐食に強いかどうかも確認しています。


 
Caliper B-M4 yellow  

4) 安全性

ブレンボは、半世紀以上の経験を通じて、極めて厳格な生産基準を確立しました。塗装に関する基準もそのひとつです。使用する素材がブレーキシステムの性能に影響を及ぼさないように品質管理をしています。ブレーキ動作時は発生する高温で塗料がはがれ落ちてブレーキに干渉しかねないため、塗装を第三者に任せてしまうのには大きな危険がひそんでいます。


 

5) 純正品に勝るものなし

ブレンボのキャリパーは純正品が買えるのに、美しさも信頼性も抜群の性能もすべて手にできるのに、なぜキャリパーを塗装したり再塗装したキャリパーを買ったりするのでしょうか。 今年11月にラスベガスで開催されるSEMAショーでは、BM-8キャリパーが8色のカラーバリエーションで登場しますので、愛車のチューニングにぴったりの色が見つかります。 しかも、ブレーキのデザイン・技術開発・製造で世界のトップを行くメーカーのお墨付きキャリパーなのですからお見逃しなく。


 

結論

ブレーキキャリパーの塗装は、カウンター表示を必要とするような精緻な作業です。当社は自らの経験に照らして、塗装をお勧めできない理由が5つあると考えています。もちろん、ユーザーの皆様にはそれぞれお考えがあり、愛車の仕上げ方もそれぞれお好みの選択肢をお持ちのはずです。

塗装に関しては、適切な方法で完成させる技量を有したプロの業者が存在することは当社も否定はしません。ただ、不適切なやり方で塗装を施したあとキャリパーが機能不良に陥ったという報告がしばしば当社に寄せられるのも事実です。明らかに言えるのは、キャリパーの故障の原因は塗装そのものよりも、油圧関連部品に対して行う準備作業にあるということです。その多くは、ピストンの脱着作業時の不備で、場合によっては外しさえしなかったケースもあります。この場合、そのままキャリパーに焼付塗装を施すと、熱でピストンのシーリングが傷み、キャリパーとしての性能発揮に支障をきたすおそれがあります。

こうした作業を行う業者が、その工程で何を行うか、またどのようなプロ意識で作業するかは千差万別で予測不可能です。したがって、当社は、ブレーキシステムのような、人命に関わる重要なアクティブセーフティーであるパーツにこの種の加工を施すことに反対しています。