パワーユニットの進化はF1ブレーキをどう変えたか

2017/03/14

 F1カーの重量/馬力アップで見直されたブレーキングシステム

 

モータースポーツのレギュレーションが変更された場合、次シーズンまでにその変化に乗り遅れることなく対応しきれるかということが大きな課題となります。たった1つの変化を見逃したり、重要な対策を1つ適切に行えなかっただけで、大きな出遅れとなるのです。このような事態が最も顕著に表れたのは、2013年の末に開催されたFormula1世界選手権(F1)でした。ここではパワーユニットの導入とターボチャージャ付きエンジンの再来という2つの大きな変化がもたらされました。

2013年に行われたこの大きなレギュレーション変更によって、ブレーキングシステムの作動構成の再考が不可避の課題となり、ブレンボは新たな技術的ソリューションの開発に取り組むこととなりました。幸いなことに、ブレンボには最先端のブレーキングシステムを次々と開発し、常に新しい業界標準を生み出し続ける「秘密」があります。つまり、毎年、ブレンボではグループ内の約10%の社員が所属する研究開発部門に売上の5%を投資しているのです。

(詳しくはウェブサイトwww.brembo.comをご覧ください) ブレンボの従業員が世界全体で9,000名であることを考えれば、全体の1割ものエンジニアや製品スペシャリストが、ますます安全性を高めている高性能製品に対して更なる研究や微調整を日夜繰り返していることからも、未来に対する無限の可能性を強く信じるブレンボの姿勢がお分かりいただけるのではないでしょうか。

さて、それではここ3年間のF1世界選手権に見られるパワーユニットの革新の軌跡を、ブレーキの変遷とその成果に注目しながら見ていきましょう。


 


1年目: 課題を受け入れる


パワーユニットの導入に伴い、シングルシーターのパワーは750 HP(2013年末)から850 HP(2014年世界選手権)へと数ヶ月でアップしました。また、新しいレギュレーションによってマシンの最低重量も642 kg(2013年)から691 kg(直後の世界選手権)へと引き上げられました。 このようなレギュレーション変更はブレーキングシステムにも大きな影響を与え、システムにかかるストレスがそれまで以上に大きくなりました。

また、KERSに続いてERSが導入されると、ブレーキングシステムのリヤセクションは設計変更を余儀なくされました。 そこで、リヤアクスルにおけるブレーキングアクションを最適化するため、ブレーキバイワイヤ(BBW)技術が導入されました。

リヤシステムによって作動するこのアシステッドブレーキングシステムは、ブレーキングの仕組みをドライバーによる機械的で直接的な制動操作からエレクトロニックコントロールユニットを介した電子制御システムへと遷移させるものとなりました。

一方で、リヤアクスルへと分配される制動力が増加したことに伴い、リヤ側において求められるエネルギー放散量の減少に適応するため、ブレンボはリヤブレーキディスクの径と厚みを削減しました。

2014年の成績:優勝:19、ポールポジション:18、ファステストラップ:16、ポディウム:45、ラップリード:1,083


 

2年目:実力を証明する

2015年に入ると、F1のシングルシーターの最低重量は更に引き上げられて702 kgとなり、タイヤの輪郭はよりはっきりとした形状に変更されました。

そんな中、ドライバーたちは900馬力前後に調整されたそれぞれのマシンのエンジンからより一層のパワーを引き出すべく奮闘します。これに伴い、当然のことながらブレーキメーカーはブレーキングシステムを設計段階から見直し、シングルシーターの新たな要件に適応するブレーキングシステムを新たに検討する必要に迫られました。

F1ではカーボンブレーキディスクの温度は非常に高温となり、1200℃にまで達することがあります。このディスクの冷却をより効果的に行うため、ブレンボはベンチレーションホールの数を1000個から1200個に増やすと同時に、ディスク径を縮小しました。

もちろん、ベンチレーションの仕様は各チームで使用されるエアインテークにベストマッチするよう、それぞれのシングルシーターごとのニーズに合わせて調整されました。 更に、ブレンボはより効果的なアルミニウム/リチウム合金のブレーキキャリパーを開発しました。

このキャリパーは機械加工のプロセスに1個あたり14時間もの時間をかけ、重量と剛性の面で完璧なバランスを実現しています。それに加え、ブレンボは新たな摩擦材を導入しました。

ブレーキディスクへCER 300を採用したことは、コンポーネントの磨耗を大幅に抑え、より効率の良い熱伝導率を実現するとともにウォームアップ時間の短縮にも貢献しました。パッドにも変更が加えられ、ベンチレーテッドCCR700パッドの導入が開始されました。

2015年の成績:優勝:19、ポールポジション:19、ファステストラップ:19、ポディウム:51、ラップリード:1,129

 

 
 

3年目:進化の連鎖

2016年はテクニカルレギュレーションに関して言えばかなり安定したシーズンでしたが、マシンのパワーは更にアップしました。950 hpの馬力を実現したメルセデスのパワーユニットは多くのオブザーバーから賞賛を受けました。

昨年11月のメキシコ大会において、複数のマシンが370 km/hに上るスピードに到達したことは、決してこのことと無関係ではありません。 パワーのレベルアップ、そしてデザイナーたちの生み出す新たな空気力学的ソリューションに対応すべく、ブレンボは各チームと協力してブレーキングシステムのカスタマイズを続けました。

実際のところ、より一層カスタム性が高く、また、各シーズンを通して継続的な進化を見込めるブレーキングシステムを求める声は、どのチームからもますます高まっています。

個々のエレメントを微調整することにより、ブレンボはより軽くコンパクト、そして、より一層高性能なコンポーネントの開発に成功しました。

チームの要求に応えるため、ベンチレーションホールの数についても柔軟な変更を可能にし、パッド当たりのホール数を約80個にまでカスタマイズすることができるようになりました。

2016年の成績:優勝:21、ポールポジション:21、ファステストラップ:19、ポディウム:60、ラップリード:1,268


 
 

成績まとめ

パワーユニットが導入されてからのGPレースは59戦、合計で3551周ものレースラップで熾烈な争いが繰り広げられました。

a) ブレンボ製ブレーキを装備するシングルシータ―がGPレースで勝利した回数:59回 → 比率:100 %

b) ブレンボ製ブレーキを装備するシングルシーターがポールポジションを獲得した回数:58回 → 比率:98.31 %

c) ブレンボ製ブレーキを装備するシングルシーターがファステストラップを記録した回数:54回 → 比率:91.53 %

d) ブレンボ製ブレーキを装備するシングルシーターがポディウムに立った回数:156回 → 比率:88.14 %

e) ブレンボ製ブレーキを装備するシングルシーターがラップリーダーになった回数:3,480回 → 比率:98 %

過去3年間で積み上げられたこの功績の多くはメルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツによってもたらされたものでした。この期間において、シルバーアローは勝利数51回、ポールポジション獲得数56回、ファステストラップ記録数34回、ポディウム登壇96回、そしてラップリード回数2,968回という目を見張るような成績を収めてきました。


 

しかしそういった成功の陰には、1975年以降途切れることなくF1に参戦し、長年の豊富な経験を持つブレンボの貢献ももちろんありました。 レギュレーションは今後更に変更され、シングルシータ―のサイズおよびタイヤ寸法が引き上げられる予定です。

また、ウィングの幅とリヤディフューザーも同じく大きくなって、燃料もこれまでより5 kg増加します。 例のごとく、これらの変更はブレーキングシステムに大きな影響を及ぼします。実際のところ、ブレンボのエンジニアたちは2017年シングルシーターの新しい特性に最適なソリューションを開発するための研究を既に開始しています。

2017年シーズンにどのようなブレーキが登場するのか気になって仕方がない―そう思われた方は、3月まで何とかお待ちください。その頃になれば、来るレースシーズンに向けてブレンボが準備した新機能の全貌が明らかにされる予定です。