MotoGP 2016でブレーキにとって最も過酷なサーキット

2016/03/25

 ブレンボの予想とブレーキにとって困難なコースランキング

カタールでのMotoGPチャンピオンシップ開幕戦を終え、まだあと17レースある。


2016年のシーズンは、非常に速度が出るコース(フィリップアイランドとムジェロでは周回平均速度が176km/hを超える)と速度が出ないコース(例としてリカルド・トルモでは157km/hに下がる)、ストップアンドゴーに満ちたコースと緩いカーブが特徴のコースが入り混じっている。
ブレンボは、世界選手権最高峰クラスの全てのサーキットについて、ブレーキにかかる負担を予想してみる。


 

ブレーキング回数

              
加速の開始には誰もが優れていて、速さの差は主にエンジンのパワーによって決まるというのが一般的な見解である。しかし、いち早く加速を開始して貴重な100分の1秒を稼ぐライダーもいるのだから、全面的に正しくはない。ただし、これはまた別の話である。運転面における差は、特にブレーキングに表れる。全てのサーキットに同じ数だけハードブレーキング地点があるわけではない。フィリップアイランドでは3カ所に過ぎないが、シーズン開始から4戦目までのコースではそれぞれ8カ所である。また、コースの距離もサーキットごとに異なる。基準を統一するため、規則によって走行距離が110~120kmとされているレース全体を考慮することにする。


最も大きな差として、リカルド・トルモではライダーは240回ハードブレーキング地点を通過するが、これは80回強であるフィリップアイランドの3倍に相当する。この極端な例は除くとしても、コース間での違いは無視できない。いくつか例を挙げるだけでも、セパン・インターナショナルが120回、ツインリンクもてぎが168回、インディアナポリスが189回である。しかしながら、コースを特徴づけるハードブレーキング地点の数を、制動装置が受けるストレスの評価に適切な指標であるとみなすことはできない。現に、数にはハードブレーキングの強さや難しさといった要素が含まれていないためである。このことは、リカルド・トルモのコースが240回のハードブレーキングがあるにもかかわらず、制動装置にかかる負担としては選手権レース全体の平均的なコースであることが示している。

 

 

ブレーキングに費やされる時間と減速

                 
予想の精度をより高めるため、制動装置に影響が大きい“古典的な”指標を用い、サーキットをプロットした。指標は、レース中にブレーキングに費やされる時間のパーセンテージ(横軸)とMotoGPにおける最大減速値の平均(縦軸)である。


前者はレース全体の走行中にブレーキングしている時間を表し、後者はそのレース中のブレーキングの強さの最大値を平均した客観的な数値で、加速度Gで表す。

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4つに区分された図の右上の領域では、ツインリンクもてぎとセパン・インターナショナルが軸の交点からの遠さで突出している。どちらもブレーキングに費やされる時間のパーセンテージの高さ(ライダーはレース時間のうち少なくとも4分の1はブレーキを使用する)とハードブレーキング地点における最大減速値の平均(1.4G以上)が特徴である。この2カ所が、MotoGPにおけるブレンボの制動装置にとっては最悪のコンビである。


逆に左下の領域には、ブレーキに費やされる時間が少なめで、最大減速値の平均がライダーの体にとっても制動装置にとっても穏やかなサーキットが示されている。ここでは、フィリップアイランドとTT・アッセンでブレーキにかかる応力が控えめであると推測できる。応力が“控えめ”とは他に比べればであって、例えばフィリップアイランドの最初のカーブで267km/hから109km/hに減速する時にライダーのレバーにかかる負荷は5kgである。


一方、右下の領域にあるのは、ブレーキングに費やされる時間のパーセンテージは高いがブレーキングは格別強くはなく、比較的スピードの出ないサーキットである。アウトドローモ・テルマス・デ・リオ・オンドとサーキット・オブ・ジ・アメリカズは、どちらも1周に8カ所のハードブレーキング地点があるが、これらの多くは“人に優しい”減速で通過できる。


左上の領域に位置するサーキットも、ブレーキの使用は少ないが、ライダーが最大限の力でブレーキングしなくてはならないため油断は禁物である。この領域には、制動装置に尋常ではない応力がかかるムジェロ(なかでもサン・ドナートのカーブ)とアウトモトドローム・ブルノ(特にコースの最初のカーブ)のような厳しいハードブレーキング地点を持つサーキットが含まれる。


 

ブレンボの技術員から見た厳しいサーキット

                                   
先程の図では、最初の表から得られる推測とは部分的に異なる結果が浮かび上がっている。しかし、それでもこの分析を完成させるには不十分であり、ここまでで明らかになった数量的な事象は測定の難しい質的な事象で補完されなくてはならない。


それには、アスファルトのグリップ(自動車レースにも使用されるコースもあればオートバイのレースのみに使用されるコースもある)、気候条件、ライダーの運転スタイル、マシンの動力学特性といったさまざまな要素が含まれる。


だが同時に、ブレーキ・システムにとってのサーキットの難しさを定義するために重要なのは、ハードブレーキング地点の厳しさとその配置である。モーターランド・アラゴンのようにハードブレーキング地点が連続する場合はブレーキの冷却に十分な時間がなく、ザクセンリンクのようにそれぞれの間に距離がある場合とは異なる。


こうした事象の全てを細かく扱うのは単純な試みではない。しかし、ブレンボの技術員は40年間にわたり(最高峰レースが500ccの2サイクルエンジンであった頃から)世界選手権のコースで力を発揮してきたのであり、問題から抜け出す術を心得ている。このことは、MotoGPを走るほぼ全てのライダーから何年にもわたって信頼を得ている事実が示している。ブレンボの技術員の感性を参考に、前掲の図表とは部分的に異なる評価表を作成した。


 

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MotoGP 2016の18のコースそれぞれについて、レースに携わっているブレンボのエンジニアがレース中に制動装置にかかる負担を評価し、1点から5点で採点した。


制動装置にとって非常にイージーまたはイージーであると評価されたのは、フィリップアイランドとTT・アッセンの2カ所に過ぎない。一方、今年のMotoGPにおいてブレーキにとっての困難さがミディアムであるとみなされたサーキットは9カ所ある。
そして、より困難なのは、ヘレス、レッドブル・リンク(MotoGPを初めて開催するサーキットであり断言はできない)、アウトモトドローム・ブルノ、モーターランド・アラゴンで、ブレンボの技術員に“ハード”(レベル4)とされている。
最後に、ブレンボの制動装置を大いに困らせてくれるサーキットが評点の最高であるレベル5で、ツインリンクもてぎ、セパン・インターナショナル、バルセロナ-カタルーニャである。


実際にツインリンクもてぎは、ブレーキを強力に使用し2速で回るカーブの多さのため、ブレーキにとって最も負担の多いコースである。ハードブレーキ地点間でブレーキディスクを冷却することが難しいためでもある。日本のこのコースでは、最初のカーブから10番目のカーブまでほとんど間断なくブレーキをかける。そのうえ路面が完璧で、タイヤの接地性を損なうことなく制動トルクが非常に良く伝わるグリップがあるため、制動装置に対する強い応力が生まれるのである。


一方セパン・インターナショナルでは、特徴として厳しいハードブレーキング地点の中でも特に最初と最後のものが際立っている。いずれも1.6Gを上回る最大減速力、ブレーキ前とブレーキ後の速度の差が220km/hで、レバーにかかる負荷は少なくとも6.5kgという急激な減速である。ブレーキングに費やされる時間のパーセンテージの高さと亜熱帯の気候のため、ブレーキにとってもライダーにとっても温度のコントロールが重要になる。


バルセロナ-カタルーニャは、“ベリーハード”の3カ所のうち唯一シリーズ前半戦にある。ブレーキに強い応力が加わる激しいブレーキングを要し、技術的にとても難しいコースである。このサーキットの特殊なコースレイアウトのため、制動装置の最大の難関はまさにブレーキの冷却の難しさにあり、それは時として晩春のスペインの気温の高さで、より深刻になる。全て急激で間隔が短い(コース前半に5カ所もある)ハードブレーキング地点であり、ブレーキディスクとブレーキパッドの使用中の温度が著しく上昇し、コースの複雑な箇所では十分に冷却されないのである。