ブレーキにとって最も厳しいサーキットはどこでしょうか?

 ブレンボが予測する2016年のF1でブレーキに最も厳しいサーキット

2016年のF1がいよいよ開幕しました。今後の開催を待つ19か所のサーキットについて、F1マシンのブレーキにはどこが最も厳しいかを、ブレンボが予測してみます。

        

2016年のF1が開催されるサーキットは、ブレーキシステムにとっての難易度を評価する観点からみると非常にバラエティ豊かです。低速サーキット、市街地コースなどの難物、平均時速の高い高速コースなど、さまざまなサーキットがあります。


 

温度の面で厳しいサーキット


 

各サーキットをより客観的に予測するために我々が参照したのは、信憑性の高い「過去の実績に基づく」指標、つまり、レース中のブレーキングの割合(縦軸)と平均制動力です。前者は、レースの全走行距離のうちブレーキングに費やした時間で、後者はそのレース中に使用したブレーキの強さの平均値です。

 

この2種類の指標を相互に参照した結果がこの図です。ブレーキの使用で必ず関係する温度という側面が浮かび上がってきます。確かに、ブレーキの空冷に関して非常に厳しいサーキットが上半分に位置しています。

 

 

 

図の左上のエリアは、空力負荷が大きくブレーキングに要する時間の割合は高いものの、ブレーキの強さは特には目立たない低速サーキットです。ブレーキが平均して若干強くなった場合でも、キャリパーやブレーキフルードの温度が非常に上昇するため、ブレーキにとっては非常に厳しいサーキットです。

              

右上のエリアは、空力抵抗が小さめの高速サーキットです。ここにあるのはモントリオールやサヒールで、高速のストレートが複数あるうえに、鋭いカーブと直線がいくつも交じっていて、ブレーキに費やす時間が(モンテカルロやシンガポール、メキシコやアブダビよりは明らかに短いものの)長めなことと、かけるブレーキが平均して強いという特徴があるため、ブレーキにとってはこれらも厳しいサーキットです。

              

左下のエリアは、インテルラゴスや鈴鹿などの、ブレーキにはそれほど厳しくないサーキットで、高速コーナーが多いことと、ブレーキは強くないことが特徴です。 右下は、ブレーキをかけるときは非常に強いものの、回数は多くない高速サーキットです。例外(例えばモンツァ。F1マシンのブレーキシステムにとって最も厳しいサーキットのひとつ)を除いて、これらのサーキットはブレーキにとっての難易度は中ランクです。ブレーキングポイントで5Gに迫る高い減速Gがかかるという特徴はあるものの、その手前に非常に長い直線があるため、摩擦材を効率よく冷却する時間を十分確保できるからです。


 

ブレーキの使い方の面で厳しいサーキット


 

前の図では、温度の面で最も厳しいサーキットとその判定理由がおわかりいただけますが、純粋にエネルギーだけの面でもブレーキシステムにとってのサーキットの難しさが決まるという認識も重要です。つまり、減速のたびにその強さがどこまで高まるか、そしてその結果、ブレーキにどれだけ厳しくなるかということです。

                    

分析をさらに進めるために、別の指標を2つ取り上げてみました。レース中にマシンがブレーキ時に放散する総エネルギー(単位kWh、縦軸)と、そのサーキットの各ブレーキングポイントの平均減速(単位G、横軸)です。


 

 

 

この図で右半分にあるのは急激な減速が必要なサーキットです。カナダ、オーストリア、イタリアは減速度が非常に大きいサーキットで、平均で4Gを超えます。


 

一方、下半分は、エネルギーの放散量が少なく制動力も低めなのが特徴のサーキットで、鈴鹿や、右下エリアのスパ・フランコルシャンやシルバーストーンが含まれます。気候条件が厳しいうえに、走行時に路面に放出するエネルギーが少ないため、冷却のしすぎによるトラブルと、摩耗材の表面に「グレージング」と呼ばれる現象が発生する場合があります。実際に、ブレーキディスクとパッドの原料であるカーボンは動作温度が低すぎると十分な摩擦力を発揮できず、ブレーキングの際のパフォーマンスが低下します。


 

座標の左上のエリアは、ブレーキの強さに関しては厳しくはないサーキットですが、エネルギーの放散がスタートからゴールまで常時続くという点では決してあなどれません。


 

​ブレンボの技術者が予測する最難関サーキット


 

2枚目の図は、1枚目の図とは若干異なる予測結果を示しています。ブレーキシステムに関するサーキットの難易度は、これまでに実施された評価などの量的な指数で判定しますが、数値化が難しい質的な要素も考慮に入れる必要があります。グリップ、空力負荷、気候条件(メカニカルグリップを上昇させ、ブレーキング時の熱を放散しにくくする高い環境温度)、またブレーキングポイントの数や強さのほかに、どこにブレーキングポイントがあり、どう連続しているかが大切で、これらはブレーキシステムにとってのサーキットの難易度を判定する際に重要な役割を果たします。


 

ブレーキングポイントが連続する区間があり、しかも区間同士の間隔が短いという状況は、判定要素として他の条件と同じように重要です。そうしたサーキットでは、ストレートが短く冷却時間が十分確保できないため、難易度が高くなります。レースの経験が少ないとこうした変数の数量化は難しいのですが、ブレンボの場合は40年以上にわたって技術者たちがF1サーキットの研究を重ね、トップチームのサポートを続けてきたキャリアがあります。彼らのノウハウを生かして、数値のみで示すランキングが出来上がりました。その結果は前の図と若干異なっています。


 

ブレンボのF1担当の技術者たちが、ブレーキシステムに求められる対応の難しさを、サーキットごとに1~10の得点で採点しました。 8点以上の難易度高と判定されたサーキットは7つあり、8点がモンツァとソチ、最高得点の10はモントリオールとアブダビです。この最高得点の2つは、2016年のシリーズでも最も厳しいサーキットとなると予想しています。これらのサーキットは、エネルギーの放散が大きいブレーキングポイントが短い間隔で連続していて、高エネルギーと高温のストレスにつねにさらされるブレーキシステムの全構成部品にとっては2か所とも非常に厳しいテストベンチとなっています。

 

難易度中(5~7点)となったサーキットは10か所で、難易度は中程度とはいえ、過小評価はできません。このランクにはモナコ、ハンガリー、メルボルンなどがあります(F1が初開催される新設のバクーも同程度と予想)。これらのサーキットでは、F1開催期間中の温度管理が重要で、システムの過熱やベーパーロック現象が発生しないよう特に注意する必要があります。 2016年のシリーズで難易度が低いと予想されるサーキットは、スパ・フランコルシャンと鈴鹿(いずれも4点)、インテルラゴスとシルバーストーン(いずれも3点)です。これらのサーキットでは大きなカーブは高速コーナーで、一般的にブレーキには難しくはありませんが、冷却のしすぎによるトラブルと、摩擦材にグレージングと呼ばれる現象が発生する場合があります。