雨のときにこそブレンボのカーボンディスク―ウェット時の常識が今まさに変わりました。

2017/11/07

 かつて、雨天時でのカーボンの使用は、その制動効果の低下を理由に敬遠されていました。しかし先日の日本グランプリでは上位9名のライダーがこれを使用し、いずれも素晴らしい結果を残しています。

"自らを高める挑戦以上に過酷な挑戦はない"         
(Michael F. Staley) "

 



日本GPが開催されたのは2017年10月15日(日)のことでした。アンドレア・ドヴィツィオーゾが1着でゴールし、2位のマルクマルケスと0.249秒、その後ろのダニーロ・ペトルッチとは10.557秒の差をつけてMotoGPレースの優勝を飾りました。彼らの後ろに続くのはアンドレア・イアンノーネ、アレックス・リンス、ホルヘ・ロレンツォ、アレイシ・エスパルガロ、ヨハン・ザルコ、そしてマーベリック・ヴィニャーレスです。
24ラップで一度も止むことのない雨の中、トップが次々と入れ替わる熾烈で見ごたえのあるレースが繰り広げられました。スタートからチェッカーフラッグまで、47分間以上にわたって雨は降り続けました。また、更に悪いことに、気温は14℃を超えることはなく、アスファルトの温度も終始15℃以下となりました。

これまで、過酷な状況でライダー達が利用するソリューションは一つでした―スチールディスクです。しかし今回、表彰台に上がった3人のライダーすべてが、ブレンボのカーボンディスクを使用しており、更にその後に続いた6人も同じくカーボンディスクを自身のバイクに装備していました。実際のところ、ポイントを獲得した15人のライダーのうち、ブレンボのカーボンディスクを装着していたのは13人に上りました。

結果を見れば、どのメーカーも少なくとも1台はカーボンディスクを搭載したマシンで上位15位までのポジションに入っています(ドゥカティ3台、ヤマハ2台、スズキ2台、アプリリア2台、KTM 1台)。これはそれぞれのバイクの特性の如何を超えて、ブレンボが造るカーボンディスクの有効性をはっきりと証明するものと言えるでしょう。


 
 

カーボンディスクの活躍により、ツインリンクもてぎでのレースは各ライダーともドライな路面で体感するのと遜色ないバイクのダイナミクスを楽しむことができました。スチールディスクはカーボンよりも重い材料のため、どうしてもバイクの動的挙動に好ましくない影響が発生してしまいます。

ブレンボのカーボンディスクを使用すればばね下重量の軽量化が実現し、ホイールがアスファルトをより確実に捉えることができるようになるため、サスペンションの挙動が向上します。これが結果的に乗り心地の向上やより効率的な地面への力の伝達につながります。

つまり、例え雨の日であっても加速時や方向転換時により高い性能を約束してくれるのは、スチールではなくカーボンディスクであるということです。 どしゃ降りの雨の中、ドヴィツィオーゾは1ラップを1’56”568のタイムで走破しましたが、これはこのトラックでのベストラップより11”218長くかかっており、タイムに10.6%の遅れが発生していることを意味します。これはかなりのロスのように聞こえますが、この逆もまた真であり、このレース結果はカーボンディスク搭載のマシンにより高いドライバビリティが認められることを意味しています。

2016年のオランダGPは雨でトラックはウェット。途中でレースの中断も起きました。そんな中、ダニーロ・ペトルッチが記録したベストラップは1’48”339。これはレコードラップより14”722遅く、15.7%の遅れに匹敵します。
そしてこの日、ペトルッチが装着していたのは、他の選手と同じくスチールディスクでした。


 

​ 片や10.6%、片や15.7%―。当然のことですが、カーボンとスチールの間に常にこれほどの明確なパフォーマンスの違いが出でるかというとそうとは言い切れないと、私たちは自身の知的誠実性に従ってここで指摘しておく必要があります。

良好な摩擦性能を確保するために、カーボンは少なくとも250℃の作動温度に達する必要がありますが、最近までこの値はレースや完全にウェットな路面では現実味のない数値でした。

しかし近年、バイクのパワーの増加やタイヤの改良、そしてカーボンディスクの革新的変貌を経て、新しいシナリオが出来上がりました。すなわち、MotoGPバイクのブレーキにより一層のパフォーマンスの充実が求められる一方で、ブレーキが正常に作動するのに必要な温度範囲への到達時間が確実に短縮され続けているのです。 雨天時におけるカーボンディスクの性能がスチールディスクに事実上追いついたことが証明された最初のレースは、2015年に開催されたサンマリノGPでした。その日、雨が降り始めたためにすべてのMotoGPライダーはピットに入り、マシンの交換を始めました。 滑らかに仕上げられたタイヤを装備したドライ用のマシンを置いて、彼らはウェット仕様にセッティングしたバイクにまたがりました。スチールディスク搭載のバイクです。しかしそんな中、たった1人、ブラッドリー・スミス(ヤマハTech3)だけは違いました。彼はピットでのマシン交換を行わなかったのです。ところが、気温が低下したにもかかわらず、彼のカーボンディスクは全く影響を受けることなく、何と2着でレースを終えたのです。

その中の一人が、マルク・マルケスです。彼は週末に開催されたレースの中でブレンボ製320 mmローストリップカーボンディスクを使用するメリットについて語り、直前まで降り続いた豪雨でびしょ濡れになったトラックでもそれを使用することを希望しました。

その日、マルケスは砂利にクラッシュしてバイクのフロント部分を失いましたがこれまでにないファステストラップをマークしました。そして、マルケスは後ろから追い上げ、11着でフィニッシュしました。更にレース後、ブレンボの技術者たちはディスクとテレメトリーの分析を行うとともにライダーのコメントを聞き、問題がないことを確認しました。

 

 
そして9月10日、雨の中のレースであったにもかかわらず、ブレンボのカーボンディスクを装着したマルケスが、2017年サンマリノGPで見事優勝したのです。このとき、彼はペトルッチとドヴィツィオーゾに囲まれて表彰台に上がりましたが、2人のドゥカティライダーが使用していたのは、ブレンボのスチールディスクでした。

1か月後、状況は一変します。日本GPでは3日間の雨続きで、雨天時のスチールディスクのパフォーマンスに強い疑念を持ち始めたライダーたちはブレンボ製カーボンディスクの効果をいよいよ試す機会に恵まれました。本来ブレーキングシステムには各ライダーにぴったり合った個別のセットアップが必要であることを考慮すれば、結果は意外なものでした。

ウェットでのカーボンディスクの正しい使用方法を説明するブレンボの技術者たちのサポートによってライダー達は大きなメリットを体感することができ、彼らの中の19人が実際にウェットのトラックでカーボンディスクを採用しました。ラップを経るごとに限界を把握しながら、ライダーたちはそれぞれのパフォーマンスを高めていきました。レースの後、その全員がカーボンディスクの効果に満足しました。


 

 

 

実際のところ、わずか1カ月の間で、雨天時のMotoGPにおけるブレンボ製カーボンディスクの勝利成績は0から2に増えました。しかしここで重要なのは、つい先日までは利用価値のないものと見向きもされていなかったソリューションが、今となってはトップクラスライダーのスタンダードに取って代わったという点です。
さらに、10月のMotoGPで見られた革命は、ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリのレースで見られたものよりはるかに過酷な状況でした。なぜならそのレースは、後半に雨が止んだからです。

レース序盤は理想的な温度に達していないことが考えられるため、カーボンディスクの性能を最大限発揮させるには、高い技術力が必要となります。この温度の問題を補うために、ライダーたちは通常より数メートル手前でブレーキングを行って、温度を上げます。温度が250℃を超えれば、摩擦係数が安定します。

一方、スチールディスクの場合は高温時に注意が必要で、レース終盤ではブレーキレバーのパフォーマンスが不安定になるリスクが伴います。更に、カーボンディスクはウェットコンディションにおいてスチールブレーキで心配されるような摩擦トルクの問題に悩む必要がありません。

 

 

カーボンディスクの場合、リリースフェーズにより迅速に入ることができ、ライダーが望むように引きずりのない快適なライドが保証されます。言い換えれば、カーボンディスクでのブレーキングの場合は(ブレーキの解除後に)タイヤが直ちにフリーな状態になるため、より良い乗車性が得られます。

上位9名を含めた19人のライダー達が走破したこの115 kmは、MotoGPからすればほんの小さな一歩ですが、モーターサイクリングの歴史にとっては非常に大きな一歩となりました。しかしこれでブレンボのカーボン開発への探求が終わるわけではありません。

ブレンボでは材料や構造技術におけるより一層の発展を目指しながら、将来的にはできる限り多くのロードバイクにもカーボンディスクの適用が可能になればと願っています。なぜならすべてのMotoGPライダーにブレーキングシステムを供給している今でも、ブレンボは新たなチャレンジを続けるからです。挑戦をつづけることによってのみ、私たちは成長できるのです。