ブレンボ:MotoGPのブレーキングの秘密(その1)

2016/05/10

 MotoGPで340mmブレーキディスクを使うのはなぜでしょうか。 320mmディスクと比べてどんな利点があるのでしょうか。ブレンボがくわしく解説します。

MotoGPは、バイク界で研究が最も進んでいる分野です。ドルナの規定がコスト削減の方向性をみせても、研究はとどまることなく、新たな制限が絶えず加わる中で性能を向上させています。そうした事情に詳しいのが、MotoGPでトップクラスに属するほぼすべてのチームにディスクとキャリパーと供給しているブレンボの技術者です。MotoGP担当のカスタマーマネジャーを務めるブレンボのロレンツォ・ボルトロッツォ氏に、ブレーキシステムが1000ccのプロトタイプバイクのパフォーマンスに与える影響について、わかりやすく解説していただきました。


「ここ数年、大型バイクに規制が加わる一方でスピードがますます上がってきていて、我々はカーボンのブレーキシステムの進化を迫られました。」


 
 

              

具体的にはどんなことでしょうか?


「ブレーキ時にはバイクに運動エネルギーが生じて、これは熱という形で放散するわけですが、この熱はカーボン製のディスクと、同じくカーボン素材のパッドとの摩擦で生じます。

 

3年前までは、ディスクは最大径320mmのものが使われていたのですが、マシンのスピードと重量が上がってきて、このディスクでは性能と安全性の面で限界に近づいていました。

 

カーボンディスクは高温では性能が非常に高いのですが、1ラップ中に何度も使うなどしてあるレベルを超えると、酸化作用が生じます。

 

性能が大幅ではないにせよ落ちてきますし、ディスクやパッドも摩耗が進んで安全性に支障が出てきます。

 

性能の低下にライダーが気づく程度はわずかですが、その時点で摩耗がかなり進んでいて、キャリパーからパッドがはずれてしまう可能性もあります。」


 

対策としてどんなことをしたのですか?

 

「ドルナとIRTAの規定があってディスクのサイズアップはできなかったので、パッドの方で摩擦面を増やして放熱性を上げようとしたのですが、結局それでは足りないという結論が出ました。」


MotoGP側との間で安全性の問題について話はしましたか?

 

「我々のところで素材として性能と安全性がそろそろ限界だということになった後は、ドルナもIRTAも非常に気にしまして、2014年以降、径の大きい340mmディスクの使用が許可されました。キャリパーは変えなくても済むように厚さは同じです。安全性と性能はもちろんですが、それ以外に価格の上昇を避けたいということで、コストも検討の対象でした。」


 

                    

340mmディスクは解決策となりましたか?


「多くのチームがパッドのサイズを上げたキャリパーで使いました。

 

340mmディスクでは320mmと同じブレーキトルクが得られます。

 

320mmディスクでは、テレビでレース映像をずっと見てると気づくかもしれませんけど、ライダーが転倒しそうになったりブレーキングで後輪が浮いたりするんですよね。

 

でも、340mmに変えることで、たとえブレーキトルクは同じでも大事な点が違ってくるんです。ブレーキ中の圧力が減りますし、作動時間が短くなってディスクとパッドの温度が下がります。」


320mmディスクと340mmディスクでは重さは違いますか?


「違いますね。ただ、100g程度です。ということは、ライダーは気づかないレベルです。

 

ディスクは1.3kgを少し超えるくらいですが、タイヤとホイールはそれよりはるかに、ほぼ1ケタ違って重いですから。」


 

 

 

温度は違いますか?
 

「320mmと340mmでは約100度の差がありました。最高温度が約800度に達することを考えると、ライダーの安全性向上という面であの導入が非常に重要だったのは明らかです。」


2015年はブレーキの通気性は上がりましたか?
 

「改善しています。ただ、ディスクではなくてキャリパーで実施しました。」


F1では、ブレーキシステムは、空気力学以外にもタイヤを温める目的で活用が進められていますが、MotoGPでも状況は同じですか?

 

「MotoGPではやっていません。ブレーキ性能と安全性の向上、これだけにひたすら専念しています。」

 

(つづく)