モントリオールからモナコまで―2017年フォーミュラ1仕様ブレーキにとって最も過酷なトラックを予測しました

2017/05/10

 ブレーキにとって最も厳しい条件を備えたサーキットとは、一体どこなのでしょう? ブレンボが2017年フォーミュラ1仕様ブレーキにとって最も過酷なトラックを予想してみました。

 

「直線コースとは、コーナーの間にある退屈なつなぎでしかない。」という名言を残したのはスターリング・モスですが、確かにフォーミュラ1の魅力は二つと同じ場所のないその多彩なコーナーにあると言っても過言ではないでしょう。

角度や傾斜、そしてシングルシーターのターンイン・スピードがたとえ似通っていたとしても、ターマック(舗装材)のグリップや温度など、それぞれのコーナー特有の様々な個性が存在しています。


 

しかしこれらのすべての要素はブレーキシステムに対してかかるストレスに大きな影響を与えます。 そこで、フォーミュラ1のトップチームと緊密な連携をとって作業にあたるブレンボの技術者たちは、それぞれ異なる構想の下で設計されているそれぞれのサーキットに対して、ブレーキに最も過酷な環境となり得るサーキットのランク付けを行い、世界選手権用トラック(20トラック)のランキングを作成しました。ランキングでは、それぞれのトラックがブレーキにかけるストレスの量を相対的に示した1~10のスケールが用いられています。

スケールはそのスコアが高いほどブレーキにとって過酷なサーキットであることを意味し、ブレーキにかかるストレスが最高レベルとなる「Very Hard(非常に過酷)」と評価されたのは 、アブダビ、メキシコシティ、モントリオール、およびシンガポールのサーキットとなりました。

次にわずかな差を空けて続くのが(スコア:9)バーレーンサーキットで、スコア8を記録した他の5つのトラック(バクー、メルボルン、モンツァ、シュピールベルク、ソチ)とともに「Hard(過酷)」と評価されています。

 

 

反対に、スケールのスコアが最も低く、ブレーキングシステムにとってより「優しい」サーキット(「Very Easy(非常に容易)」)として評価されたのが、インテルラゴス、シルバーストーン、そして、鈴鹿です。

しかし、最も容易とされるこれらのサーキットにおいてもスコアは「0」ではなく「4」となり、これらのサーキットにおいてもブレーキに対する何らかの課題は存在し、決して油断できないコースであることを意味しています。

ただ、現在これらの潜在的な試練を我々が「些細なもの」と判断できるとしたら、まさにそれはブレンボが過去数十年間にわたって繰り返してきた技術革新の賜物であると言ってもよいのではないでしょうか。

 

 

各サーキットのトラックに対して出されたこのランキングは、すべてのブレーキポイントにおいて測定された数値データと、数値に置き換えることのできないいくつかの質的変数データを組み合わせて判断した結果により決定されています。例えば、ターマック(舗装材)の温度が50 °C(122 °F)に達するメキシコGPと気温が20 °C(68 °F)を超えることのないイギリスGPではブレーキの使用感が全く異なるのです。

アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスの場合、キャリパーとディスクのオーバーヒートを防ぎ、正常な作動を確保できる約1000 °C(1832 °F)までの温度域に保つためのベンチレーション性能が最も重要な要素となります。オーバーヒートに起因する不具合を回避するため、それぞれのチームでは各ディスクに1400個のベンチレーションホールを備えたカスタマイズ設計のクーリングシステムを採用しています。 一方、シルバーストーンのサーキットでは、シングルシーターの温度が過度に下がることで摩擦材の消耗につながるリスクがあります。

また、ディスクとパッドを構成するカーボンは、気温が低すぎる場合に十分な摩擦力を保証することができないため、ブレーキング性能が損なわれてしまう危険があります。 The ラップ全体のブレーキングセクションの合計数は、しばしばシステムのストレス評価に直結する変数のように思われがちですが、それは間違いです。例えばドライバーが1ラップあたりに行うブレーキングの回数は、モントリオールが7回であるのに対して、それよりトラックが0.62マイル短いモンテカルロでは12回となっています。

しかしながら、ブレーキへのストレスにおいては、ノートルダム島のサーキット(モントリオール)が「Very Hard(非常に過酷)」であり、モナコのトラック(モンテカルロ)が「Medium(普通)」と評価されています。


 
 

その理由としては、カナダは主要なブレーキングセクションが非常に近く設置された「ストップ&ゴー」サーキットで、ブレーキが冷える間がほとんどないことが挙げられます。

対してモナコは曲がりくねったトラックの形状によりマシンの速度をそれほど出すことができないために、ブレーキングの頻度こそ多いものの、そのブレーキングの時間は短くなっています。

つまり、重要なのはブレーキングセクションの数ではなく、コーナーの配置こそがブレーキへのストレスを決定づける主要な要素なのです。

上海とサヒールはコースの長さ(3.36マイル)は同じで、いずれも8箇所のブレーキングセクション(ラップあたり)がありますが、バーレーンGP(サヒール)ではエネルギーを大きく消耗するブレーキングセクションがトラック中央に多く用意されているため、非常に激しい摩擦材の摩耗を伴います。

中国GPの場合、ブレーキに大きく負担のかかるコーナー(ターン6、11、14)はトラックの全体に散在した状態で用意され、それに加えてところどころかなり容易なブレーキングセクションが設置されているという構成となっています。

このようなトラックの場合は次の負荷がかかる前にブレーキングシステムを十分冷却させることができます。


 
 

モントリオールのサーキットを例にとると簡単に想像がつくかもしれませんが、ブレーキングシステムへのストレスを評価する上でカギとなる重要な変数の一つが、それぞれの制動時にかかる平均最大加速度です。

モンツァ(4箇所のブレーキングセクションへいずれも340 km/h(211 mph)を超える速度で進入)のように激しい制動を余儀なくされるポイントの多いサーキットの場合、減速時にかかるG力は非常に重要なファクターとなります。

モナコの場合、シングルシーターの速度が300 km/h(187 mph)を超えることはなく、最も難しいブレーキングセクション(トンネル通過後(ターン10))でもマシンの速度は201 km/h(125 mph)以下となります。そのため、最大G力は4.7 G、平均では3.6 Gに留まります。


 

また、ランキングで考慮されるもう一つの変数が、ブレーキングセクションで求められるブレーキングの強さです。この要素は各ポイントにおける空力負荷、減速度、そして減速の空間的/時間的長さに直接影響を与えます。

ソチとモントリオールのサーキットの場合、ラップ全体のコースにわたって2000 kWhを超える制動力を必要とするブレーキングセクションが実に6箇所も存在し、ソチ(ロシア)のトラックに用意されたセカンドコーナーで求められる制動力は最大で2435 kWhに達します。

モナコの場合、制動力が2000 kWhの大台に達するのは一部のコーナーに限られ、最大の制動力を記録するポイント(2180 kWh)でもカナダGPの3つのコーナーやロシアGPの4箇所のターンには及びません。 以上のことからご想像いただけるかと思いますが、フォーミュラ1のシングルシーターに搭載されるブレーキングシステムは各トラックの様々な特徴に適応しながら効率的な作動を確保するために、見た目よりもずっと複雑にできています。

これはブレンボにとって大変大きな挑戦ですが、私たちはこの世界最高性能のマシンたちから得た経験を活かしながら、日常で使用するクルマへとその技術を応用しています。 ブレンボ―トラックから路上まで。