世界ラリー選手権2017のブレーキの概要

2017/01/24

 フォードとヒュンダイが新型WRC参戦マシンにブレンボ製ブレーキを搭載:2017年はマシンもブレーキもパワーアップがテーマ

WRCマシンの車両規定が変わったことで、ブレーキシステムにも影響が及びます。新型マシンでは最高出力が80馬力も増え約380馬力まで上がっています。

パワーの増加に伴って車幅も広くなりました。リアウィングやフロントバンパーに加え、リアディフューザーまでも大型化させて対応しています。当然、コーナリングのスピードアップは必至です。

 

 

最新情報

馬力とグリップが上がれば、ブレーキシステムにかかる負荷は確実に増加します。メーカーの要望を受けて、レギュレーションでまずはターマック(舗装路)コースに限り370mm径のブレーキディスクの使用が認められました。ちなみに2016年までは最大径は355mmでした。

しかし、ブレーキがパワーアップするということは、過熱の危険性も高まります。そこでマシンの各メーカーは、フロントの吸気ダクトに改良を加えるとともに、新たにリアにも吸気ダクトを採用するなどの対策をとっています。ブレーキディスクとキャリパーの冷却に要する正確な空気量のデータを各チームに提供する立場にあったのがまさにブレンボです。

液冷システムについては、賛成論と反対論を慎重に検討した結果、採用が見送られました。専門家は、このシステムではキャリパーと関連パーツ類の重量が増え、万が一マスターシリンダーが損傷した場合に安全が担保できないと判断しています。

ブレンボの技術者も、温度制御は吸気ダクトで可能との見解を示しています。


 
 

参戦チーム

連続20回目の世界の頂点を目指し、ブレンボはMスポーツにブレーキシステムを供給します。

今年は世界チャンピオンのセバスチャン・オジェが加入しました。チームメイトはオット・タナク、エルフィン・エバンス。いずれもマシンはフォード・フィエスタです。

ヘイデン・パッドン、ティエリー・ヌービル、ダニエル・ソルドがハンドルを握るヒュンダイi20クーペWRCも、ブレーキシステムのほぼ全パーツはブレンボ製です。 一方、トヨタのヤリスは2台ともブレンボ製のパーツはごく一部です。


 

ブレーキに影響を及ぼす要因

WRCの場合は、ドライバーもチームも対応を強いられる数多くの要因が、ブレーキシステムの特性にも関わってきます。

重要なものをあげてみましょう。

1) グリップが高くなるほどブレーキシステムの使用が増加します。

WRCでは開催地によっては雪上や氷上も走行するほか、水路を横断することもあります。路面もアスファルト、砂漠、砂利道と激しく変わります。それぞれのグリップの違いが、ブレーキの機能に影響を及ぼします。

2) 影響が最も大きい要因は、コースのワインディングです。ブレーキシステムに対するストレスが大きくかかります。

スペシャルステージとして使用される区間もブレーキの使い方に影響します。ストレートとブレーキングポイントが多いコースの場合は、左カーブや右カーブが連続するコースとはブレーキの使い方を変える必要があります。

3) 下り坂が多いと、ブレーキシステムにかかるストレスが増加します。

コースのアップダウンも重要です。走路がフラットなレースと、急勾配の上り下りが続くレースとでは、ブレーキに求められる対策が違ってきます。ブレンボは、WRCで積み重ねた幅広い実績から車両が直面する条件に合わせて、特徴の異なるブレーキシステムを準備しました。

 

 

未舗装路コースのラリー

コースが未舗装路のラリーでは、走行中は頻繁に軌道修正をしなければなりません。 車を走路の中央へ戻すために左足で絶えずブレーキ操作をすることになります。 したがってブレーキシステムには常に圧力が加わり、冷却の時間がありません。

つまり、ブレーキにとって必要な「循環」が、ラリーでは許されないのです。 未舗装路では、一般的に径の大きいブレーキディスクは不要です。アスファルト上のレースのように長いストレートの最後で急ブレーキをかけるようなことがないからです。

このためブレンボは、径300mm (2016年と同様)、厚さ25.4mm~28mmのディスクを供給しています。 難易度が低めのレースの場合、ブレーキへのストレスが大きいレースで必ず使う素材は必要ないため、超軽量ディスクを使用します。

また、ブレーキパッドは、車輪のロックを回避するとともにディスクの過熱を防ぐために、アスファルトのレース時よりも柔らかめの、RB330という素材のセラミック製ブレーキパッドを使用します

 

 

ブレンボのレース専門の技術者によると、2016年のシリーズ13戦のうちでブレーキシステムにとって最も厳しいレースは、ラリー・メキシコです。スペシャルステージは起伏が激しいコースですが、一番の特徴は大きな下りで、ブレーキが非常に重要です。

「Ibarilla」スペシャルステージでは、約20キロで標高2,599メートルから2,065メートルまで駆け下ります。 ラリー・イタリアもブレーキシステムにとっては試練のラウンドです。コースはグリップが高い未舗装路で、あちこち曲がりくねっているため、ブレーキを絶えず操作して軌道修正しなければなりません。またアップダウンも数多くあり、走路にとどまるためにはブレーキ操作が欠かせません。

ラリー・アルゼンチンもブレーキシステムに非常に厳しい未舗装路で開催されるラリーのひとつです。このレースの難所は、熱衝撃を招きかねない浅瀬の横断です。ディスクに亀裂が生じたりパッドが外れたりする危険性が高くなります。 熱衝撃と切っても切れないのがラリー・スウェーデンです。

降雪量が多いときは、車の後部が大きくすべります。その結果、積雪にぶつかってリアブレーキに雪が付着する可能性もあります。また、積雪が多ければグリップは低下します。降雪量が少ないときは、スパイクが固まったダートの路面をとらえてグリップが上がります。このように2種の要素があるためブレーキシステムにとっての難易度を中ランクと判定しています。

ブレーキシステムにとって難易度の低いラウンドは、ウェールズ・ラリーGBとラリー・フィンランドです。 ウェールズ・ラリーGBはぬかるんで滑りやすくグリップが低いことで知られています。

一方、ラリー・フィンランドは、高速区間が多いコースですが、走路は砂利で覆われて滑りやすく、最初に通る車は砂利でグリップを失います。


 

 

アスファルトコースのラリー

アスファルト路面で開催されるラリーでは、スピードアップにはクリーンなドライビングスタイルが求められ、可能な調整は数少ないという点で未舗装路とは区別します。

アスファルト路面のレースでは、ストレートと高速コーナーが交互に続くのが特徴で、ブレーキはほとんど使用しません。ブレーキをかける場合は急ブレーキをかけることになるため、その際のブレーキトルクは非常に高くなります。

また、ブレーキリングが鋳鉄のブレーキディスクについても未舗装路のレース時とは別のものに変えて、大きめの径の370mm、厚さが30~32mmのディスクを使用しています。

フロントには370 mm径ディスクが必須ですが、リアは355mm径や320mm径を使用するメーカーもあり、路面状況やドライバーの感触で決まります。 セラミック系のパッドは未舗装路面のレース時よりも効きの強いブレンボRB350素材を選んでいます。

 

 

2016年のWRCで、アスファルト路面で開催するラリーのうち、ブレーキに最も厳しいのはラリー・ドイツです。グリップが非常に高く、特に「Arena Panzerplatte」スペシャルステージではアスファルトではなくセメント上を走行します。

そのうえ、長いストレートのエンドには直角のコーナーがあります。したがってその際のブレーキトルクは非常に大きくなります。 ラリー・ド・フランスも、2015年と2016年のコルシカ島でのレースに関してはブレーキには非常に厳しいコースといえます。2010年から2014年までは開催地はアルザスで、難易度指数は中程度のランクです。

一方、コルシカ島では、コースが非常にツイスティーで道幅も狭いため、ブレーキペダルを頻繁に踏んで軌道修正する必要があります。 ラリー・モンテカルロはブレーキシステムの難易度では中ランクですが、これはコースの最初と最終の区間を平均した結果です。

ギャップの町に近い序盤のスペシャルステージでは、雪がなければグリップが高く、危険度が増します。モナコの北の最終のスペシャルステージでは氷や雪の路面が続くため、ブレーキはほとんど使用しません。

ラリー・デ・エスパーニャは、アスファルト路面でスタートして未舗装路面でゴールするという点で同じ難易度です。スタート時点では、装備はブレーキも含めてアスファルト仕様です。

路面が変わると、メカニクスがディファレンシャルやサスペンションに加えブレーキシステムも交換します。