フォーミュラ1用車両ブレーキの換気が、チームにとってデリケートで重要な要素である理由。

フォーミュラ1用の車はどれも、何千時間もの研究、無数のコンピューター計算、シミュレーション、試験、また規制で定められている使用制限がある中で小さなコンポーネントすべてを最適化するために必要な、数回の風洞実験を経た結果です。使用制限規則には、最大1,200回の風洞占有、960回の試験、240時間のウィンド・オン・タイムなどがあります。


ブレーキシステムも例外ではなく、ブレンボはフォーミュラ1チームに供給するすべてのコンポーネントを、厳格で高度な試験とシミュレーションの対象としています。試験には、キャリパー圧力を測定するものや、トルクをかけて評価するものもあります。こうした試験は、設計で仮定した最大値から50%増の力を適用して実施します。ブレンボが設計した動的ベンチでは、レースをシミュレートして、ペダルボックスやサスペンションを含むブレーキシステム全体を試験します。センサーが肯定的な結果を出すと、ブレーキは認証され、量産して選手権全体の各チームに届けることができるようになります。あらゆる計算や静的・動的試験にもかかわらず、レースの歴史には、予想外の事が予期せぬ問題を引き起こし、グランプリの成功を危うくしたことがたくさんあります。


ほとんどの場合、きっかけとなる原因は例えば他の車から外れてしまったコンポーネントなど外的なもので、チームのアクションとは無関係です。1995年イタリアGPで、ジャン・アレジのフェラーリから外れたカメラがツインカーのサスペンションアームに衝突し、ゲルハルト・ベルガーがリタイアを余儀なくされたのは有名な話です。

しかし時には、動物の侵入やスタンドから来た物体など、トラック上にいる他の車とは無関係の要因で不具合が発生することもありました。これについては、アルピーヌ・ルノーが2021年のバーレーンGPで、フェルナンド・アロンソをわずか33周後にストップさせ、彼が乗るA521のトラブル悪化を防いだことがあります。

すべての原因は、このフランス車のリアブレーキのエアインテークにサンドイッチの包み紙が詰まり、過熱を引き起こしたためにブレーキシステムの動作が損なわれてしまったことにありました。


ピットにいた技術者たちはテレメトリーで異変に気づき、これ以上走り続けるとドライバーと同僚の安全性をかけたギャンブルになってしまうため、リタイアを決めました。


フォーミュラ1の歴史でも、またアロンソ自身にとっても、こうしたエピソードは目新しいものではありません。2015年、マクラーレン在籍でスペインGPに参戦していたアロンソは、25周目にリタイアを余儀なくされます。その前に恐怖の瞬間があり、ドライバーは「リアブレーキが効かなくなったようだ」とピットに連絡していました。


故障の原因はエアインテークに入り込んだ捨てバイザ-で、透明なプラスチックの小片が車の底に落ちているのが見つかりました。2022年のベルギーGPでも同じことが起こり、シャルル・ルクレールがその被害者となりました。1周目にバイザーが右フロントブレーキのエアインテークに突き刺さって煙を出しましたが、幸い、その後のピットストップで取り除くことができました。


車の各所に設置された複数のセンサーのおかげで、チームはディスクとキャリパーの温度を常に把握することができます。このデータに基づいて、車のブレーキバランスを修正したり、システムを管理したりするためのアラートがドライバーに送信されます。この通信は、予測と比較して異常が記録された場合に発生します。

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ブレーキエアインテークの重要性


しかし、ブレーキエアインテークはどのような仕組みで、誤って閉塞した場合はどうなるのでしょうか?フォーミュラ1用車両のホイールコーナー周辺では、時とともに改善を重ねたカーボンブレーキダクトと付属のエアインテーク、フラップ、フローディフレクターがますます洗練されるのを私たちは見てきました。これらは、ブレーキシステム冷却だけでなく、空気力学的機能を果たすこともできるように設計されています。


その理由は、タイヤの回転運動によって発生する乱気流からの空気を浄化することで、車のドラッグを低減したり、空力負荷を増加させたりできるからです。エアインテークがひとつでも閉塞していると、ディスクとパッドは最適な動作温度よりも高い温度で継続的に動作することを余儀なくされます。


その結果、酸化が起こり、激しいブレーキングを数回行うだけで摩擦材の温度が跳ねあがる危険性があります。そのため、不慮の換気不足は、まずブレーキフルード、次に摩擦材の機能を損なう恐れがあります。


摩耗が非常に早くなるのに加えて、摩擦材が焼け始めてディスクの一部が削り取られ、一方ブレーキフルードは沸騰してベーパーロック現象が発生します。このような状態で走り続け、ドライバーがブレーキペダルをさらに強く踏み込むと、摩耗が換気口にまで達し、ディスクが破裂する危険性があります。


ブレーキキャリパーの製造に使われるアルミニウムは700℃で溶解します。しかし、ブレンボ製フォーミュラ1用6ピストンキャリパーの保証しきい値は210℃であり、これは有意ですが、使用範囲が350℃~1,000℃であるディスクの最低動作温度よりは低い温度です。


カナダGPのように高分類で近接したブレーキポイントが多いレイアウトの極限の条件下で、ディスクやパッドが非常に高い温度に達するのとは異なり、ブレンボ製キャリパーが200℃を超えることはありません。

最適温度の謎


ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットやアブダビ、メキシコ・シティ、シンガポールのトラックでは、長いストレートがなく激しいブレーキングを繰り返すため、ブレーキシステムを冷却できるよう大量の空気を内部に取り込む必要があり、ブレーキ・エアインテークの役割が重要になります。


逆に、シルバーストーンや鈴鹿、インテルラゴスのようなトラックでは正反対のリスクがあり、ブレーキが理想的な動作温度に達することができないと、結果として摩擦材にグレージング現象が起きる危険性があります。


このような条件では、ブレーキが必要な空気は少なくなり、エアインテークが「部分的に閉じ」られて、ブレーキに向けられるエアフローが効果的に減少します。机上ではこうした選択肢が合理的に見えますが、フォーミュラ1用車両のホイールコーナーには多くの要素が関係しており、それぞれに異なるニーズがあります。

さらに、タイヤの性能、パワーユニットの動作温度、直線でのドラッグに対する影響も考慮する必要があります。
要するにこれは本格的なバランシング作業で、これにブレーキディスクの通気孔の数という追加変数が加わります。CFD(数値流体力学)計算によって設計されたブレーキは、ディスク製造元と車両コンストラクターの相乗効果を持つ研究の成果です。


シーズン中に使用するエアインテークや、特定のGPに向けて変更するエアインテークに応じて、各チームはそれぞれ最適と考えるバージョンのディスクを選びます。フロントについては、ブレンボは最大1480穴のディスクを製造していたこともありますが、2022年以降、最小直径3mmと設定されたため、フロントディスクの穴数を1000個から1100個に減らしました。

ブレンボの供給先チームで使用する2種類のカーボンディスクは、「ワイドスプライン」と「片面スプライン」です。「ワイドスプライン」仕様では、ベルと接する部品であるドライブの厚さはディスクの厚さに等しく、「片面スプライン」仕様では、ドライブの厚さはディスクの厚さ未満となります。

後者のソリューションは、ディスクの通気戦略を変え、ホイールコーナーの外装を良くするのに有利になることもありますが、カーボンに最適な機械的応力が犠牲になり、このために換気用の穴あけが制限されます。どちらのソリューションを選択するかは、個々の車の設計に基づく各チームのニーズによります。